間章 想い(2)
「彩乃さんを…そういう目的だけで見たことはありません」
そうきっぱりと言い切った後で、つつつっと視線を畳みに移し、ぽつりと、
「もちろん…私も男ですから、欲がないわけではないですが…」
と付け加えました。正直ですね。
「女人なのに剣を握って…どこがいいんですか?」
そう言った瞬間に、沖田くんが顔をあげました。
「女人であっても、守りたいものがあれば、戦いたくなる…そう言っていました。私も初めは、男として守るために戦うのに、その守られる相手までが戦いに出ては…と思いましたが」
でも…と、言葉が続きます。
「いつか、誰かを守ることになったときのために、守れるだけの力が欲しいそうです。俊の影響も大きいみたいで。しょっちゅう言われるんですよ。『お兄ちゃんに言われた』って。『用意がなければ、守りたいときに守れない』『知識は力になる』『武術にしろ知識にしろ習えるときに習いなさい』だそうです」
あの宮月くんが…意外です。
私といるときには、何も考えていないように見えるんですが、さすがお兄さんというべきでしょうか。妹さんにはしっかりとしたことを言うのですね。
「それを一生懸命実践しようとしているのを見ると、いじらしくて…」
その気持ちは分かるような気がします。私も江戸で、沖田くんが一生懸命私の言うことを聞いて学ぼうとするのを好ましく見ていましたから。
沖田くんが顔をあげて、情けない笑顔を見せました。
「最初は土方さんに言われて見張っていただけだったんですけどね。剣が使えるというのにも興味を持ちましたが、そのうちに可愛らしい外見に惹かれて。普段はおっとりしているのに、剣を握ると目つきが変わるんです。そこが魅力で。そうしているうちに、今度は内面に惹かれてしまいました。素直で。私の話す他愛無いことに笑ってくれて、一生懸命話を聞いてくれるんですよ。そして一本芯が通ったしっかりとしたところもあって」
おやおや。
「それは惚気ですか」
「えっ」
沖田くんの動きが止まりました。
「いいのではないですか。たまには惚気も」
気を使わせないように微笑んで言うと、沖田くんが頭を下げてきました。
「すみません。久しぶりに来て、惚気て。でも昔から、山南さんにはつい喋っちゃうんですよね」
そういえばそうでした。
稽古が辛いとか、お姉さんに会えなくて寂しいとか。
土方くんや近藤さんには絶対に言わないようなことも、私にはこぼしていましたね。
「山南さんは誰にも言わないでくれますから…」
私は笑みを深くしました。
「誰にもいいませんよ」
「はいっ」
江戸での日々が戻ってきたような沖田くんの笑顔でした。




