第16章 血脈(3)
「彩乃! 聞こえたら来て」
仕方ないので、僕は彩乃のほうを呼んだ。多分、そんなに大きな声を出さなくても、自分の名前だったらわかるはず。
「彩乃~。彩乃~」
何回か呼んでるうちに、彩乃が来る。便利だ。
「お兄ちゃん、犬を呼ぶみたいに呼ばないでよ」
彩乃が文句を言いながらくる。血の匂いはしない。
「山南さんは?」
「わたしが着いたら終わってたの」
彩乃がしょんぼりとする。
「だから静かに引き返してきた。怪我したみたい」
「そっかぁ」
うーん。悪いことしちゃったなぁ。
そう思いつつも振り返る。父さんがニヤニヤしながら僕を見ていた。
「彼女か」
「違うってば。妹」
「妹?」
父さんの片方の眉がつりあがった。
「父さん、こっちが妹の彩乃。彩乃、こっちが僕らの父さん。アルバート」
二人はお互いに目を丸くして、お互いを見ていた。
とにかくゆっくり話しができるところっていうんで、場所を移して、父さんがお世話になっているという屋敷へ行った。
うーん。そこそこ大きいけど…。
門を開けるかと思えば、軽々と塀を乗り越えていく。まあ、僕らも従ったけどさ。そうやって部屋の一室に案内されたわけだ。
「とりあえず、ここが俺の部屋」
そう言って父さんはぐるりと部屋を見回して見せた。畳の上にベッドが用意されている。うん。それだけはうらやましい。
僕は端的に、僕たちが150年先の未来から来たこと、彩乃が妹だってことを話す。
正直、もう、何がなにやら…。
「で、俺は150年先で死んでると」
あ~、最初に言っちゃったからね。仕方ないよね。
「そう」
僕は素直に認めた。
「なるほどね」
「ちなみに…いや、いい。聞くのは止めておこう」
多分…母さんのことだ。僕は何も言えない。
父さんはパイプを出してきて火をつけた。そういや、タバコを吸うんだっけ。正直、タバコも僕らの種族にはなんの影響も与えないから、ある意味カッコつけだ。
「信じる?」
「信じるよ」
「なんか、思い当たる節ある?」
僕は上目遣いで父さんを見た。ちなみに会話は全部日本語。
一見して外国人とわかる外見に反して父さんは日本語がうまい。反対に彩乃はまだまだ外国語が喋れないから、必然的に会話は日本語になる。
「ないこともない」
「なんでそんな曖昧なの」
「多分、お前らは、俺が作った穴に落ちたんだな」
え?
その言葉に、僕と彩乃はまじまじと父さんの顔を見つめた。




