第2章 成り行き任せのその日暮らし(3)
「なんだ…今の…」
場からざわめきが聞こえてきて、土方さんが我に返ったらしい。
「勝負あり」
そう判定してくれた。
「てめぇ、どこの流派だ」
土方さんが睨んでくる。
「いや、流派っていうか、適当?」
「適当で、斉藤がやられるかっ!」
ごもっともです。
実際、斉藤一の動きも、僕が思っていたよりも早かった。紙一重で勝った感じだ。
そして、次に試合としてやったら負けちゃうかな~なんて思ってる(笑) 片手だと力が軽くなるからね。突きならともかく、斬りおろすのには向かない。
っていうか、今気づいたけど、負けて良かったんじゃない? 大勢の隊士の中に紛れ込む作戦でいこうとしてるのに、幹部に勝ってどうするんだよ。
うわ。本当に今気づいたよ。
「もう一回…」
と斉藤が言おうとしたところで、僕はすばやく頭を下げた。
「すみません! 実は剣術できません!」
あっけに取られる皆さん。
いや、別にこの際、僕のプライドなんてどうでもいいし。
多分だけど、とりあえず職場確保は済んだし。
捨て身戦法に出てみた。
「てめぇ。昨日のは与太か? じゃあ、今のは何だ? まぐれか?」
土方さんが睨んでる~。
「いや~。体術なら得意なんですけどね~。剣術はやったことないんですよ」
あはは~という僕の乾いた笑いが響く。
「体術は得意だと。新八!」
「あ?」
「おまえ、相手しろ」
え~って不満そうな顔をしながら、永倉新八が出てくる。この人はどちらかというと、日本人らしい~顔した人だった。雰囲気は凛々しく。きりっとしている。
僕は比較的細身だし、まあ、体術が得意って言われても、ピンと来ないんだろう。
ケンカなれしてるな~。この人。土方さんの掛け声の後で、いきなりの右フック。
つかみ掛かるかと思ったら、そういう出方するんだ。
一瞬焦ったけど、そのまんま左手で掴んで、身体を使ってくるりとひっくり返す。
落とすときには、頭を打たないように多少手加減した。
そのまんまうつ伏せに寝せて、手首の関節を押さえる。こうしたら、もう動けない。
「なんだ、今の」
目を丸くする土方さん。
僕の下で、びくびくしてる永倉さん。
あ、ごめん。
慌てて、手を離すと、手首をさすりながら永倉さんが立ち上がった。
「今のは油断したけど、次はそうは行かないぜ」
永倉さんが、いきなり足蹴り。これは半身で捌いて、後ろから肩を掴んで投げ飛ばして、片手を背中で押さえつけて終了。
合気道の形の流用。




