第15章 酔っ払い(8)
「ん~、じゃあ、あたしも、なんかやろうかな」
え?
そう思った瞬間に、彩乃が僕の左脇に手を入れると、ひょいっと僕を10cmほど持ち上げた。
「え?」
みんなの目が丸くなる。
「なんちゃって。うふふ~」
ちょっと待って、うそ! 彩乃が、いやちょっと待て、この時間だともしかして…。
「俊にい。なんかいい気持ち~」
リリア!
「いやいや。単に、僕が今、つま先で立って浮いたように見せかけただけ」
そう慌てて繕うように言えば、
「だよな」
「驚かすなよ」
「びっくりしたぜ」
「驚きました」
と、口々に納得してくれる。良かったよ。酔っ払いの集団で。
他に見ていた人は…と見回すけど、大丈夫みたい。みんな勝手に騒いでいた。
「戻ろう。彩乃、とにかく戻ろう」
「え~。もっと飲みたいぃ~。いいじゃん。俊にいのケチ」
うわ。慌てて僕はリリアの口を手でふさぐ。
「あ~、とりあえず戻るから。じゃ、あとはよろしく~」
無駄に笑顔を振りまきつつ、リリアをずるずると引っ張って部屋の端から出ようとしたところで、リリアが踏ん張る。
「い~や~だ~。もっと飲むの」
うわ~。勘弁してよ。リリアのほうが力は強いんだからさぁ。
仕方ない。僕は合気道の要領でリリアを転ばせて、とりあえず部屋の外に出して、廊下との間の襖をピシャリと閉めた。
「リリア」
寝転がっているリリアに視線を合わせる。
「ん~、俊にい~。楽しいね~」
ダメだ。こりゃ。
「部屋におとなしく戻って」
「い♪ や♪」
いや、じゃないよ~。
「宮月彩乃」
僕は真面目な声で呼んだんだけど、
「あたしは~、リ、リ、ア。うふ♪」
あ、ダメだ。
思わず深くため息を吐く。仕方ない。僕は視線をリリアに合わせた。
「リリア」
目に力を入れたとたんに、リリアの身体がビクリとなる。
「部屋に戻るよ」
「はい」
ぼーっとした表情になって、そのままリリアは僕の後をついてきた。ほんと嫌なんだよ。この力を使うの。なんか相手が人形みたいなっちゃうから。
部屋にリリアを戻して、無理やり寝かしつける。ああ、もう。力の大盤振る舞い。そして自己嫌悪に陥る。
もっと早く止めときゃよかった…。はぁ。
翌日、けろっとしている彩乃と、二日酔い多数の新撰組の一団が出来上がっていた。




