第15章 酔っ払い(6)
夕食時、大きな座敷に通されて、僕たちの食事が振舞われる。宴会形式で、一応上座に幹部、下座に平隊士。
こういうとき、僕はできるだけ一番下座にいるようにしてるんだよね。彩乃がいるから目立つのは嫌だし、逃げるのも楽にできるし。
でも今日は座敷に入ったとたんに、総司が僕らに張り付いてきた。仕方なく、僕らは総司の隣に座ることになり、幹部連中に混ざることになる。
「一体、あれ、なんですか」
ぷぷ。総司の髪の毛、ふわふわ。意外に猫っ毛だったんだな。綺麗にしたら、ふわふわしてるっていう。
「ちょっと、困ってるんですよね。これ。油つけても浮いてきて」
そう言って、総司は自分の結い上げた部分をなでた。いわゆるポニーテールの部分だ。それを見て彩乃が目を輝かせる。
「触ってもいいですか?」
「え? ええ? い、いいですけど」
彩乃はまるで猫の尻尾でも撫でるように、両手で撫で始めた。
「わ~。凄い。つやつやですね!」
「え? そうですか?」
「はい。キューティクルいっぱいって感じです」
「きてくる?」
「あ、えっと、髪の毛が綺麗?」
僕が彩乃をちらりと見ると、彩乃はやっちゃった…という顔をして、僕に目だけで謝ってくる。
もう。注意してよ。現代語禁止なんだから。
「すごくいいですね。柔らかくて」
彩乃の髪の毛も柔らかいけどね、と僕の心の声を聞いたのか、
「わたしの髪の毛も触ってみます?」
お返しに…って感じで、いきなり下ろしたままにしてあった自分の髪の毛を差し出す。
いやいや。ここじゃ、それ、まずいから。宴会場だから。
「彩乃。ここじゃダメ」
こそっと言うと、総司もはっとしたように手を引っ込める。
触ろうとしてたよね。今。
「あ、じゃあ、また今度」
彩乃はそう言って、自分の髪の毛からも総司の髪の毛からも手を離した。
「まあ、今日一日ぐらいじゃない? その髪の毛。明日には落ち着くよ」
「ま、まあ、いいですけど…」
彩乃に褒められたことで総司の気も落ち着いたらしい。




