第15章 酔っ払い(5)
まずは彩乃に入ってもらった。次が僕の番。途中で水足して、交代して彩乃が薪をくべる。
お風呂って、外に焚口があるわけ。そこで薪をくべて、竹筒で空気を送って、火の勢いを見ながらお湯の温度を調整する。
「お兄ちゃん、どう?」
「熱い…」
「え~」
彩乃って肺活量もあるからさ、火が強くなるんだよ。熱いのなんのって。
「そんなに一生懸命、吹き込まなくていいから」
「面白いんだもん」
「僕を釜茹でにしないでください」
そういうと、彩乃がきゃっきゃっと笑う。
もう~。子供なんだから。
僕が頭を洗っている最中に、総司が来た。
「彩乃さん、何やってるんです?」
どうやら彩乃を探していたらしい。
「お風呂焚きです。お兄ちゃんが入ってるの」
僕が風呂から顔を出すと、総司が呆れたように僕を見る。
「昼間からお風呂ですか?」
「夜はお客さんが入るから。総司も入れば? 気持ちいいよ」
「え? いや…私は…」
「入ったほうがいいかなって…。綺麗になりますよ?」
彩乃がそう言ったとたんに、総司の顔に朱が走る。
「入ります」
あ、気にしたな。うん。まあ、いいことだよ。清潔にするのは。
「ついでにいいもの、貸してあげるから」
と僕は言って総司を手招きした。
ぐるりと総司が外を回って(焚き口は外にあるからね)、風呂まで来る間に、僕は頭を流して、もう一回風呂につかる。
ああ。いい気分。
がらりと引き戸が開いて、総司が顔を出した。
「脱いでくれば? 僕、もう出るから」
そういうと、頷いてから首を引っ込めて、ごそごそと音がする。
その隙に僕は五右衛門風呂から上がると、身体を手ぬぐいで拭いた。入れ違いに入ってきた総司に石鹸の欠片を渡す。本日の分の残りだ。
「これ、濡れた手ぬぐいにこすりつけてから、身体をこすってごらんよ。垢が良く落ちるから。ついでにそれで髪も洗うといいよ」
洗った後は、これをお湯に入れてから頭を流して…と、僕が途中まで絞った柑子の実も渡す。庭で僕と彩乃の部分、二個ほど失敬した奴だ。
「なんですか? これ」
総司が手渡した石鹸の欠片を見る。
「うーん。秘伝の薬?」
「なんで疑問形なんです」
疑わしそうな総司に僕は微笑んでから、耳元に口を寄せる。
「それ、彩乃の使い残し」
その瞬間に、ボンっと総司の顔が赤くなる。
「使ってもへんなことにはならないから、大丈夫」
あ、もう僕の声は届いてないな。
「じゃ、ごゆっくり~。あ、良く流すのを忘れずにね」
そう言って僕は彩乃と風呂焚きを交代するべく、外へ出た。
うう。折角暖まったのに、寒い~って、彩乃に悪いことしたなぁ。
「ごめん。彩乃、交代するよ」
そういって焚口にいくと、逆にここは温かい。火の傍だからだな。
「わたし、やるからいいよ?」
「え? 総司がかわいそうじゃない?」
「なんで?」
「彩乃の火って強いもん」
「大丈夫だよ。ちゃんと総司さんに合わせるから」
「僕のときは合わせてくれなかったくせに」
「そんなことないもん」
彩乃がうっすらと赤くなりながら否定する。
いや、絶対、僕のときは面白がって焚いてた。ま、いっか。
「じゃあ、任せるね」
「はーい」
彩乃は、にこにこしながら竹筒を手に取った。うーん。若干不安だけど、まあ、任せるか。
夕食直前になって彩乃は戻ってきた。聞けば、結構長く総司は入っていたらしい。




