第15章 酔っ払い(3)
ということで、八十八くんだ。
「うぅ」
隣で気分悪そうにうずくまっている。
「大丈夫?」
そういうと、青白くなった顔をあげて力なく笑う。
「あ、もう出すものは出しちゃったんで、何も出ません」
あ~、辛そう。
「えっと、乗り物酔いっていうのは…視覚と三半規管のずれで発生するものだから」
「はい?」
僕は自分の脳みその中から、必要な情報を持ってくる。
「えっとね、目をつぶっていれば楽になるよ」
「そうなんですか?」
「そう。目を閉じてぼーっと寝ていれば楽になる。できれば帯とかも緩めておいたほうがいいよ。船室に行ったほうがいいんじゃない? ここ、寒いし」
八十八くんや、ちょっと躊躇したみたいだった。みんな外に出てるしね。
「だったら、ここに座る?」
ちょっとだけ身体をずらして、自分がいたところを空ける。
でっぱりの脇なので、後ろと横の風が遮られるし、陽の光がある分、いいかもしれない。
「失礼します」
そう言って八十八くんは、僕がいた場所に背中を預けて座り込んだ。
「それで目をつぶっていたら、少し楽になるよ」
「ありがとうございます」
僕は八十八くんを置いて、そっと離れて船首へ行く。大阪の街が凄い勢いで近づいてきていた。
天下の台所、大阪。僕たちは数日後に安治川の河口での警備をする。宿は幹部が何度か利用したことがある船宿の一つだ。
ちなみに安治川ってどこだっけ…とか思っていたら、天保山の脇の川だった。
天保山っていうのは、日本一低い山だ。
えっと、正式な高さは忘れちゃったけど、十メートルない。実は僕も現代にいたころに登りに行ったことがある。大きな水族館とか美術館が傍にあって、そこからちょっと歩いた公園の脇に山は存在する。
でも山がどこか分からなくて、遭難者が続出するらしい(笑)
実際、僕が行ったときにも天保山よりも、そばにある公園のほうが高台にあったので、遭難しかけたしね。現代においては周りの建物のほうが高いし、ウソっっていうぐらいの低いところに、山頂を示す札があるんだよ。天保山って。
それはともかく、天保山には砲台が設置されてあった。なんでも安政元年にロシアが来た際に、備えたものらしい。僕が前に行ったとき(現代で行ったとき)は無かったから、歴史の途中で撤去されたんだな。




