第15章 酔っ払い(1)
ドナドナドナド~ナ~。
頭の中で同じ歌がぐるぐるするのは何でだろう。
「お兄ちゃん?」
船べりで水に向かってため息をつく僕の後ろから、彩乃が声をかけてくる。
「大丈夫?」
「うん。なんかドナドナな気分」
「ドナドナ?」
「むりやり連れて行かれる感じ?」
そう。ドナドナは、市場へ売られていく子牛の歌で、荷馬車に乗せられて連れて行かれるわけ。なんか気分はそんな感じだった。
睦月の二日。正月の二日なのに、僕は大阪に行く船に乗せられている。
なんでも将軍様が上洛するので、その警護だそうだ。江戸から大阪へ行って、そこから京都へ入るんだな。その大阪からの警護だ。
とっても名誉なことだっていうんで、みんなは沸き立っているけど、僕の気持ち的には沈んだ感じ。
本当に団体行動って嫌いなんだよ。だから屯所で留守番をしたかったのに、彩乃ともども行く羽目になってしまった。
あ~、正月ぐらい、のんびりしたかったのに~。
総司を含めた組長連中は、近藤さん、土方さんと共に船内の一室で警備の確認中。船が初めての人も多くて、船酔いしたり、歓声をあげたり、忙しい。
かく言う彩乃も船で大阪湾から大阪を見るのは初めてで、また現代とは違った趣に、目を輝かせながら眺めていた。
考えてみたら、彩乃にとって京都は修学旅行とか、僕との旅行とかで来たことがあっても、大阪は初めてなんだよね。だから一生懸命見ているわけだ。
「宮月さんも船酔いですか? おえっぷ」
そういって、今にも出しそうな感じで来たのは、山野八十八くん。色白で愛嬌があって、年齢的には総司と同じぐらいかなぁ。一緒の組で巡察してるけど、あんまり話したことは無かった。
でもいつだったか八十八くんが、僕たちの部屋に乱入してきて、それからぽつぽつと話をするようになった感じだ。
何があったかっていうと、あれだよ。夜中の奇襲。どうやら平隊士同士でもやらせようってことになったらしく、貧乏くじを引いた彼が、僕たちの部屋に踏み込んできたわけ。
当然、僕たちは気付いていたわけで、またしてもそ知らぬふりをして、彼が入ってくる足元に青竹を数本転がしておいたんだよ。別に八十八くんを狙ったわけじゃなくて、誰か来るっていうんで、そういうことをやっておいたんだけど。
それで、転がった隙に、僕が関節技をかけて、彩乃が用意しておいた荒縄で縛って終了。
そうそう。例の夜中の奇襲…というか訓練? 実は結構次から次にやって来て、参ってるよ。
総司を蹴り飛ばした後に来たのは、左之だった。彼の場合は、足元と胸の位置にロープを張っておいたら、胸の位置は避けたんだけど、足のほうで見事に引っかかっちゃってさ。変な体勢で転がってきたところに、寝返りを打ったふりをして乗っかったら、見事に鳩尾にエルボが決まった。しばらく文句を言われたよ。
それから斉藤も来た。これは酷かった。
気配がしないんだもん。一応、足元がすべるように、布を置いておいたんだよ。ところがそこは踏まずに飛び超えて、いきなり寝ている僕の蒲団に刀を差したんだよ! 驚いたのなんのって。
ちゃんと避けたけどさ。蒲団に穴が開いたし…。まったく。
来るのが斉藤だって事前に分かってなかったら、間違って殺してるよ。ホント。
今、僕の中では困った奴、ナンバーワンだ。しれっと僕を試すからね。




