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間章  本当の強さ

-------- 彩乃視点 ------------


 お兄ちゃんと初詣に行くことにしたの。お兄ちゃんが言うには「ひやかし」だって。


 総司さんは幹部の人たちと朝から集まっていたから、一緒じゃないの。お兄ちゃんが下賀茂神社に行こうって言うから、歩いていたんだけど…。


「人がいないねぇ」


 お兄ちゃんが呟いた。そうなの。道を歩いている人が殆どいないの。お正月は初詣じゃないの?


「あ、お兄ちゃん。誰かくるよ?」


 向こうから歩いてくる人がいた。あの髪型は町人さん。


「あの、すみません」


 お兄ちゃんの声に、恐る恐る振り返る町人さん。ちなみにお兄ちゃんは着流し姿で刀は持っていない。わたしはいつもの袴姿で、腰には刀。


「なんでしょう」


「みなさん、初詣はどこへ行かれるんでしょうか」


「はい?」


 町人さんは、凄く変な顔をした。何か訊いちゃいけないことを訊いたのかな。


「あ、僕たち、他所から来たので京の風習に詳しくなくて…あのですね。元旦に初詣に行きますよね?」


 お兄ちゃんがさらに言うと、町人さんはますます怪訝な顔になる。


「元旦に恵方参りはしますが…元旦に初詣…ですか?」


「しませんか?」


「さぁ。元旦なら…大晦日からする年籠り(としごもり)でしょうか。または恵方(えほう)参りですね。家から見た恵方のにお参りしますね。今年の恵方は甲の方角です」


「えっと…そうするとどっちですか」


「こっちです」


 町人さんは、右手をぱっと上げて一箇所を指した。


「なるほど。ありがとうございました。どうぞ先を急いでください」


 町人さんはペコリと頭を下げると、足早に去って行った。


「うーん。こっち…つまり東北東かぁ」


「お兄ちゃん?」


「彩乃。多分、初詣って新しい風習だ」


 お兄ちゃんが腕を組んで、困ったように言う。わたしは首をかしげた。


「そうなの?」


「うん。多分? 日本の風習って明治以降だったり戦後だったりするものも多いんだよね」


 よくわからないけど、お兄ちゃんが言うならそうなのかも。


「これじゃあ、出店とかないかもね」


 そうなの。出店があったら面白いねって言ってたの。でも無いなら、ちょっと残念かも。


「仕方ない。ぶらりとして帰ろうか」


「うん」


 そう言って戻ろうとして橋を渡ろうとしたときだった。向こうから来るのは5人ほどの刀を腰に差した男の人たち。こちらをみてニヤニヤと笑っている。


「こいつら見たことがあるぞ」


「壬生狼だな」


 そんな声が聞こえた。お兄ちゃんが隣でため息をつく。


「正月早々…嫌になっちゃうなぁ」


 お兄ちゃんのやる気ゼロ。でもわたしが刀に手をかけようとしたら、軽く押しとどめられた。


「ま、お兄ちゃんに任せなさい」


 やる気はゼロでも、わたしに斬らせるのは嫌みたい。


「刀、いる?」


「いらない。素手でいい」


 わたしたちのやり取りに、男たちがゲラゲラと笑う。


「こいつ、刀無しで俺たちとやり合うつもりらしいぜ」


 でもお兄ちゃんは、けろりとした顔をしていた。


「彩乃は下がってて」


「うん」


 素直に3歩ぐらい後ろに下がっておく。一応、お兄ちゃんの援護ができるように油断はしない。


「お前らにやられた仲間もいるからな。たっぷり礼を」


 男の言葉は最後まで言えなかった。お兄ちゃんはまず先頭にいた男の腹に蹴りを当てる。男が飛んでいくのを見ずに、次はそのまま逆足に切り替えて、左側の男を横で蹴ると同時に、右手で右側に居た男の首に手刀。二人の男はすぐに意識が落ちた。


 後ろの二人が刀を抜こうとしたところで首を抑えて方向転換させると、お兄ちゃんは二人の手の上から柄を握りこんだ。そのまま、お互いの柄を喉にぶつけさせる。それで後ろ二人はそのまま気絶した。


 その間5秒ぐらい? とにかく無駄が無い動きで早かった。


 わたしは思わず手を叩いていた。凄い。凄い。


「お兄ちゃん、凄い!」


 パチパチと拍手をしながら言えば、お兄ちゃんが不満そうな顔をする。


「あのね。彩乃。この程度で褒められても嬉しくない」


 思わず拍手を止める。


「そうなの?」


 首を傾げれば、お兄ちゃんが盛大にため息をついた。


「言ったでしょ? 僕は結構な修羅場をくぐっているんだよ。この程度、どうってことない」


 お兄ちゃんは、わたしが生まれる前のことはあまり話してくれない。もしかして今なら教えてくれるかも? そっと聞いてみる。


「今までで一番凄いのって、どんなの?」


 お兄ちゃんはちょっとだけ考え込んだ。


「うーん。人数で言えば近代兵器を持った一個中隊を一人で相手したとき」


「え? そんな経験、あるの?」


「まあね。あの時はさすがに死ぬかと思った」


「どうやって倒したの?」


「そりゃあ、戦場を走り回ったよ。どこかで足を止めたらやられるからね。混乱させて同士討ちを誘発させて。敵はすべて一撃で倒して戦闘不能にして」


 そこまで話して、はっとお兄ちゃんは気づいてしまったらしい。


「まあ、そんな感じ。いいんだよ。詳しい話は知らなくて」


 話をやめてしまった。お兄ちゃんにはまだ謎が多いです。でも、やっぱり本当は強いの。わたしが思った通りだったの。


 誰にも言えないのが辛いけど。でも強いってわかったから良かった。


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