第14章 年末狂想曲(2)
買い物を終えて、屯所に戻ると、凄いことになっていた。
「てめぇら、それでも掃除したのかっ!」
土方さんの怒声が響き渡ってる。
と、後ろからポンと肩を叩かれた。
「宮月くん」
近藤さんだ。
「みんなの掃除監督、頼んだよ」
え! 声も出せずに固まっていると、近藤さんの後ろから山南さんが顔を出す。
「私も部屋の蔵書を片付け出したら、手が回らなくなってしまって…。お願いしますね」
「綺麗好きだから、ちょうどいいよね」
近藤さん…。それが嫌だから逃げてたんですけど。
「彩乃さんは、総司のところに手伝いに行ってあげて」
いや、それ、まずいでしょ。
「はい」
彩乃は素直に返事をして、総司の部屋のほうに歩き出す。
あの部屋だからな~。総司、見られたくなくて、必死に掃除するかも…って思った瞬間に、近藤さんを振り返った。
目が合って、近藤さんがにやりと嗤う。
うわ~。確信犯だよ。この人。総司、がんばれ…。
「うわっ、彩乃さん?」
総司の部屋のほうから、声が聞こえてきた。
「お手伝いに来ました」
「ちょっと、ちょっと、待ってください! ダメです。そこ触っちゃ。あ、そこもダメです! あ、それ、めくっちゃダメです!」
うわ~(合掌)
「じゃ、宮月くん、頼んだよ」
こっちもか…。
僕は仕方なく、とぼとぼと土方さんの怒声の響く、大部屋のほうへ向かった。
久しぶりに見たけど、凄いな。これ。
とりあえず、ようやく蒲団を畳んだらしいけど、匂いは結構こもってるし、部屋のあちこちに汚れた着物とその他が散乱してるし。ついでにあちこちにゴミは落ちてるし。髪の毛も落ちてるし、髪用の油もこぼれてるし。丁子油の染みもあるし。ついでに血の染みもついてるし。
僕が盛大にため息をつくと、土方さんが振り返った。
「てめぇ、どこに行ってやがった! とにかく、後は任せたぜ!」
ほっとしたような顔で言うと、そそくさと部屋を後にする。
「まず、蒲団を縁側に出してください」
僕はそう言うと指示を出し始めた。
最初はみんなぐずってた。そりゃそうだ。
僕は役職付きじゃないし、外見から言うと、みんなと変わらないというか、どちらかというと若い方に属するしね。でもこの環境、ダメでしょ。
ぐずぐず言う人は、ちょっと睨んだら黙った。そんなに本気で睨んでないけど…まあ、言うことを聞いてくれるなら、いいや。
「障子、全部開けてください」
「鴨居の上、はたきかけて。掃くよりもはたきが先」
「次は、そこ掃いて。掃くときには畳みの目に沿って掃いてください」
「拭き掃除も同じですからね。畳みの目を見て」
もうそういうところから指示しないといけないからね。
「この洗濯の山、誰のです? はい。拭き掃除はいいから、洗濯しに行ってください。全部ね。全部洗ってください」
「こっちは、誰の? 一緒に行って!」
「ゴミは捨てる。使うの? じゃあ、使うものが分かるようにきちんとまとめて」
「そこの染みもしっかり拭いてください」
ふぅ。もう…。
「なんや、おかんみたいやなぁ」
後ろからした声に振り返ると、障子によりかかった山崎さんがいた。監察方、山崎蒸。
「いや、そこで観察してないで、手伝ってください」
「わいは、監察方やからな、やっぱ、ここは観察しておきまんねん…って、何言わせとるんや」
さすが関西人。ちゃんとノッてくれたよ。
「これから報告に行くトコや。ほな」
そういうと、ひらひらと手をあげて行ってしまった。ふと見ると、みんなの手が止まっている。
「ほら、手を止めないで。日暮れまでに終わりませんよ! 掃除して、掃除!」
「呼びました?」
総司が顔を出す。
「違う~。君は自分の部屋を掃除して」
あ~。もう。なんで僕がこんなこと。まいったなぁ。




