間章 力の使い方と隠し方
------ 斉藤視線 ------
朝稽古が終わって、お互いに巡察が無いと宮月が視線を送ってくる。稽古をつけろという合図だ。俺から言うときもあれば、こんな風に阿吽の呼吸で合うときもある。
首で道場のほうを示せば、宮月も頷いた。
道場でまずは体術を教えてもらう。こいつの使う体術は、どこか理路騒然とした匂いを感じる。教えるときも一つをやると次のことができるようになっている。そんな体術の教え方など聞いたことがない。
「次は斉藤の番だよ」
その声に俺は帯刀した。
「総司と左之から話は聞いた」
先日の大立ち回りの話を思い出して、そう言うと宮月が嫌そうな顔をした。
どうもこいつは剣の腕で褒められるのを嫌がる。なぜだ?
「どうやって斬った?」
「覚えてないよ」
視線がふらふらと泳ぐ。言いたくないという合図だ。
「お前は力任せに振る」
「え?」
「剣はその重さに沿って扱ってやれば、自然と物が斬れるようにできている」
俺は左右と剣を振り回して見せた。
「斜めも、真っ向も」
斜めに落とす。それを持ち上げて、今度は正面を斬り下ろした。
「力は要らない。剣の重さに従え」
宮月が俺の真似をして剣を扱う。だが、まだその手に力が入っている。
「腕力で刀を扱うな。身体で扱え」
見本を見せてやれば、眉をひそめながら、じっと俺の動きを見る。
そうだ。この目だ。まるで獲物を狙うような目。ぞくぞくする。
そしてまた真似をして剣を振り始めた。やはり腕だけで動かす癖が抜けていない。
「背中を使え」
ポンと宮月の背中を叩いた瞬間に何かが触った。
「なんだ?」
宮月が焦ったように俺に向き直る。まるで背中を隠すように。
「あ、僕、背中の骨がちょっと固いんだよね。出っ張ってるっていうか…。あはは」
そう言って奴は笑った。
なんだ? 今の手触りは。
もう一回触ろうとしたが、奴は背を見せず、くるくると俺に向き直る。
「斉藤、今日はもう、終わりにしようか」
明るく言う奴の表情は、どこか怪しい。
「宮月。背中を触らせろ」
「嫌だよ。くすぐったいからダメ」
くすぐったい? 背中が?
俺は無意識に顔をしかめたのだろう。
「じゃあ、また明日。よろしく~」
そう言って俺に向き直ったまま、奴は不自然に笑顔を見せて立ち去っていった。
あいつ…。何を隠している?
そう思ったが次に奴の背中に触ったときには、なんの変哲もない普通の背中だった。
背中にある翼のしまい損ないです。




