第13章 内緒のクリスマス(7)
「彩乃、御菓子とお茶、出して。総司、食べていくでしょ?」
「えっと、夕飯食べたばかりですよ?」
総司は一応、形だけ辞するようなポーズを取るが、その表情は食べたいって言っているようなものだった。だから僕は言ってやる。
「甘いものは別腹だって。このぐらい食べれるでしょ? ほら、僕と彩乃だけじゃ、食べきれないからさ」
総司がへにゃりと笑った。
「そういうことなら、頂きます」
彩乃が色とりどりの御菓子を並べ、湯のみにお茶を入れる。
そういえば、いつの間にか、この部屋には総司の湯のみが出来ていた。多分、彩乃が用意したんだろう。
「そういえば、今日はなんでこんなに豪華なんです?」
総司がもぐもぐと菓子を食べながら聞いてくる。僕はちょっと思案した。
「えっと、遠い国にいるある人の誕生日」
「たんじょうび?」
え? 誕生日って日本語だよね?
「えっと…生まれた日のこと」
「は? 生まれた日を祝うんですか?」
「え? 祝わないの?」
「お誕生日、しないの?」
総司の言葉に僕と彩乃が同時に驚く。それに総司は目を丸くした。
「みんな正月に一つ歳を取るんですから、生まれた日なんて祝わないですよね。普通」
あ、そうなんだ…。
隣で彩乃がしょぼんとする。
「お誕生日もなくなっちゃうんだ」
僕は思わず彩乃の頭をなでた。
「大丈夫だよ。やってあげるから」
「俊の郷里では、生まれた日を祝う習慣があるんですか?」
「そうだね」
「でも、武蔵の国でしたよね? そんな習慣…」
「あ、武蔵の国は、ここに来る前に住んでいたところであって、僕たちの本当のふるさとっていうわけじゃないから」
僕はそう答えてから、もう一杯、お茶どうぞ…と総司に差し出し、ついでにお菓子も差し出して、この話を終わりにする。
話しても仕方ない。もう戻れない場所の話だしね。
いや、正直言うと、僕にとっては、どこを故郷と言っていいのやら。一応、代々の屋敷があるし、ヨーロッパの方になるのかな?
ま、いっか。
「あ、総司、とっておきのお酒もあるけど、飲む?」
総司が嬉しそうにへにゃりと笑った。
「私、お酒と甘いものと両方ともいけるんで、嬉しいです。土方さんなんかは、ヘンだっていうんですけどね。酒を飲みながら、甘いものって」
「ふーん」
そういえば、お酒は辛いものがいいとか言うんだっけ。僕もなんでもOKだからよくわかんないな。
酒を出してきて、総司に注ぎながら、僕も飲む。彩乃にもちょっとだけ注いだ。
「ま、どうせ総司用の布団もあるし、今晩は飲もう」
今、すべて平和だ。それで良しとしよう。
------Gloria in excelsis deo.
高きところにある神の栄光
クリスマスツリーも、ケーキも、キャンドルサービスもないクリスマスだけど、僕は心の中で、このひと時を感謝して和菓子を食べた。
メリークリスマス!




