第13章 内緒のクリスマス(6)
僕が考え込んで、静かになったところで、どたどたと足音がする。珍しく総司が廊下を走っていた。
「総司、うるせぇ!」
土方さんが怒鳴る声がする。
「お待たせしました!」
総司が息を切らして、刀を手に障子を開けた。
「総司、走らなくたって…」
「いえいえ。走っていませんよ」
「でも、今、どたどた~って」
「え? 誰が走ったんですか?」
しれっとした顔で、息を整えて、僕らの前に座り込む総司。僕は思わず吹き出した。
「なんで笑うんですか」
「いや、幸せだから、笑いたくなるんだよ」
「よく分かりません」
総司はそういうと眉をひそめて僕を見てから、彩乃に上機嫌で微笑んで、そして鍔をつけ始めた。
「うっ、入らない」
総司の刀のほうが、ほんの少しだけ太いらしく入らない。
「削るしかないな」
そういうと袂から、ヤスリを取り出し、器用に鍔の穴を削り始める。
「へぇ~、そうやって調整するんだ」
「そうですよ」
ちょっと削っては、刀にあわせてみて、また削って。そうやってぴったりの大きさになったところで、うまい具合に鍔や切羽を組み立てて、柄に入れて元の形に戻る。
「いいですね。あ、あの…お、おそろいです」
総司が照れながらそういうと、彩乃も「はい」と頷いて、自分の刀を横に並べる。
丸鍔と四角鍔で微妙に違うところが、一発でおそろいと分からずに、でも良く見るとおそろいで、いい感じだ。
「あ~、総司」
「はい?」
「悪いんだけどさ、僕の分の鍔も替えてくれる?」
僕は恐る恐る言ってみる。いや~、さっきの作業を自分で出来ると思えない。
「俊、まさか、交換方法知らなくて鍔、買ったんですか?」
「いや~、誰かに聞けば、なんとかなるかな~って」
総司は呆れたように僕を見たけれど、結局、彩乃から貰った鍔に付け替えてくれた。
そして総司は僕の刀を手元で振ってから言う。
「やっぱりかなり重いですよ? これ」
総司から刀を受け取ったけど…。重いのかな? うーん、よくわかんないな(笑)
「あ~、バランスが変わったから、慣れるまでは大変かもね」
「ばら…す?」
「えっと、重量の配分? 手元のほうがちょっと重いみたい」
「ああ。そういうことですか。まあ、手元が重いほうが軽くは感じますけどね」
ふーん。そうなんだ。
「あ、そうだ」
僕は思い出して、ごそごそとつづらの中から、包みを出した。
「はい、彩乃」
「わぁ」
彩乃が笑顔で包みを開く。
「綺麗!」
中身は櫛と鏡だ。螺鈿細工の凝った模様で、南天の実とウサギが描かれている。
「ウサギさん、かわいい~」
抱きしめんばかりの彩乃の姿に僕も笑みをこぼす。
「鍔は総司とおそろいだけど、鏡と櫛は僕とおそろいね」
僕は自分の鍔のウサギを指差した。とたんに彩乃がにっこりと笑った。
「ほんとだね。大事にするね」
総司が呆れたように僕を見る。
「ホントに、俊は油断も隙も無いですね」
「どういうこと?」
「彩乃さんを喜ばすことについては、容赦ないってことです」
ちょっとばかり嫉妬してるかな? ま、そのぐらい許してよ。




