第13章 内緒のクリスマス(5)
夕食後、総司が鍔を片手に僕たちの部屋へと訪れる。邸内でも油断せず刀を差していることが多い総司が、今日は丸腰だった。
「これ、つけてみますか?」
「いいんですか?」
彩乃が見守る前で、総司が彩乃の刀の目釘を外し、柄をもった自分の手首をトントンと叩いて、刀の身を浮かす。そしてそっと柄を外し、切羽を外し、鍔を外す。
「中、こうなってるんですね~」
彩乃の言葉に総司が目を見開く。
「知らなかったんですか?」
「はい」
総司は鍔を入れ替える手を止めて、彩乃に言った。
「手入れ道具、あります?」
「え? ありますよ」
彩乃が自分で縫った巾着に入れた手入れ道具を持ってくると、総司がそれを受け取って、柄の中に入っていた部分も、軽く乾拭きを始める。
「そのままではダメですよ。たまには外して、こっちも手入れしておかないと」
そう言って、手際よく手入れをすると、総司が持ってきた鍔をいれ、切羽を入れ、器用に柄をはめて、目釘を元に戻していく。
「器用なもんだね」
と僕まで見とれていると、総司と目があった。
「もしかして、俊も中を手入れしてない?」
「あ~。してない…かな?」
もう…と言ってから、総司は僕にも刀を出すように言う。僕も手渡すと、器用に中を外して、手入れをしてくれた。
「はい! 総司さん」
彩乃が昼間買った包みを総司に渡す。
「開けてくださいね」
そういうと、総司は気恥ずかしそうな表情で、ごそごそと包みを開けて、鍔を見せた。
「総司も刀を持ってきて、ここで付けたらいいのに」
僕がそう言うと、総司もそう思ったのだろう。
「すぐに持ってきます!」
そう言って出ていった。思わず彩乃と微笑みあう。
「総司、気に入ってくれたみたいで良かったね」
「うん」
「彩乃もその鍔、気に入ったの?」
そう言った瞬間、彩乃の頬がうっすらと染まる。
「なんか、総司さんのものが欲しかったの」
彩乃?
僕が怪訝な目で見ているのに気付いて、彩乃の顔が真っ赤になる。
「あ、別になんでもないの。何ってわけじゃないの」
「総司のこと…好きなの?」
彩乃が目を瞬いた。僕を驚いた顔をしてみる。
「お兄ちゃんにそんなこと聞かれると思わなかった」
「そう?」
「うん。恵美とか、陽子とか、いつもそういうのを聞いてくるの。『誰が好きなの?』って。でもわたし、そういうのがよく分からなくて」
彩乃が懐かしい友達の名前と共に珍しく饒舌に喋って、ふっと鍔に目を落とす。
「だから、多分、好きとか、そういうのじゃないの。でも、なんか総司さんのものが欲しかったの。中学の卒業式で恵美が憧れの先輩にボタンを貰いに行ったんだけどね。なん気持ちがわかった…。そんな感じ」
その言葉に、僕は多分、寂しげな微笑を返したと思う。とたんに彩乃が、前のめりになりながら、僕を力づけるように言った。
「それに総司さんは、わたしのことどう思ってるか、わからないし。ね?」
あ~や~の~。本当に気付いてなかったんだ…。
「だからね、今は見てるだけでいいの。そばにいられるから。幸せなの」
そう言って、彩乃は、はにかみながら微笑んだ。
彩乃。君のその気持ちは、『好き』って言うんだよ。まだ、幼い気持ちだろうけど。
うーん。兄としてはどうするべきかなぁ。応援してあげたいけど、事情が事情だけに複雑な気分だ。




