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第13章  内緒のクリスマス(4)

「これがいいかな」


 彩乃が目に付いた鍔を指差す。リスがついた鍔だ。動物から離れられないらしい。


「それは可愛い過ぎるでしょ」


「ん~、じゃあ、これは?」


 次はのっぺりしたものに、川とももみじの図柄。綺麗だけど、厚みが結構あるなぁ。


「重いよ」


 僕が一言で返事をすると、また次の鍔へと目を移らせる。


「えっと…」



 彩乃が一生懸命選ぶのを僕は横で文句をつけるだけ。でもきっと彩乃が選んだほうが総司も嬉しいと思うんだよね。まあ、あまり応援できない恋だけど、これぐらいは大目に見ておこう。クリスマスだしね。


 と思ったら、目線を動かした先に、ふっと見つけてしまった。


「これ、どうかな? 四角いけど、周りにハート…えっと猪の目がついてるの」


「わぁ。あれ、どうですか。総司さん。おそろいみたいになりますね!」


 彩乃がそう言ったとたんに、総司の顔がぼっと赤くなる。


 何も言えなくなっている総司に見切りをつけて、僕は言った。


「彩乃、いいみたい。あれにしよう」


「うん!」


 彩乃は店主に言って、二つをそれぞれ包んでもらって、上機嫌で胸元に抱きしめる。



「じゃあ、次は、ケーキ…じゃなくて和菓子?」


「うん。実は御菓子司に頼んであるから取ってくるだけだよ」


「なんか本当のクリスマスみたいだね」


「彩乃」


 あっ、と口を押さえる彩乃。総司はまだ赤い顔でぼーっとしていたので、あまり僕たちの会話を聞いていないようだった。良かったよ。




 師走の街中を、彩乃のハミングを聞きながら歩く。周りは着物を着ていて、髷を結っていて。まるで嘘のような光景だ。


 行ったことないけど、日光にある江戸の町並みに似せたアトラクションのところとか、太秦にあるという撮影所とか、こんな感じだったのかな。


 自分自身も着流しを着て、脇差だけ差して。僕の後ろには袴をはいた妹がいて、クリスマスソングをハミングしていて、そしてその横に本物の沖田総司が刀を持って、いささかぼーっとしながら歩いている。


 まったく、なんというクリスマスだろう。



 そうそう。御菓子には大雑把に分けて三種類ある。一つはよく棒振りが持ってくる駄菓子の類。まあ、ちょっとした甘いものだ。それから餅やお饅頭の類。これは団子屋や茶屋で食べられる。そしてもう一つが上菓子と呼ばれたりする、御菓子司が作るもの。現代で言ったら、お茶席なんかで出る、いわゆる綺麗な和菓子だ。


 今日は彩乃を喜ばせようと思って、そういう上菓子の店を善右衛門さんに紹介してもらって、いくつか見た目の楽しいものを見繕ってもらっている。ケーキはダメでも、これぐらいは、彩乃を楽しませてあげたいしね。僕たちは和菓子を受け取って、そして屯所に帰った。


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