第13章 内緒のクリスマス(3)
いやいや、なかなかどうして。
にっこりと微笑んだように見えるなまずがこっちを向いている目抜き(刀の柄の握りの部分に入れる金具)とか、桜の花が抜いてある鍔とか。
もちろん渋い模様のほうが多いけどね。鳳凰や竜などの伝説の動物、それから竹などの植物にトンボなどの昆虫。トンボは前に進むから勝ち虫とも呼んで縁起がいい図柄なのだそうだ。虫嫌いな人にはトンボだらけの鍔は、嫌かもしれないけど。
だるまなんていう、一風変わったものもあった。風景を描いたもの。植物の意匠を切り抜いて表現してあるもの。甲冑を着た武士そのものが題材になっていたりもする。
その一方で、円が二つ合わさっただけの鍔なんていうのもある。実用的な感じで、あまりオシャレではないな。いや、機能美っていうのかな。
今まで、あまりじっくりと鍔そのものを見たことが無かったんだけど、実は結構色々な模様があるもんだね。こういうのを見てると確かに楽しいかな。
「わぁ。ハート型!」
彩乃が嬉しそうな声をあげる。
「どれどれ?」
見に行くと、鍔の周りにハートの形がぐるりとついている。
「本当だ。でもハートってこの時代にないはずだよ?」
「はあと?」
総司が首を突っ込む。
「あ~、この形って、なにかなぁって」
と、指差して言えば、
「ああ、それは猪の目透かしですね。または葵かな。私の刀の鍔にもついてますよ。ほら」
そう見せてくれた総司の刀の丸い鍔にも四隅にハート型がついている。
「わぁ~」
彩乃が総司にくっつくようにして鍔に顔を寄せた。
「あ、彩乃さん、近いです」
焦る総司。彩乃は総司の刀の鍔をペタペタと触りながら、裏表と見る。
「かわいいですね」
「そうですか?」
「はいっ! いいですね」
彩乃がうらやましそうに言ったとたんに、総司が微笑んだ。
「じゃあ、あげましょうか?」
「え?」
「この鍔、気に入ったんだったら、あげますよ。透かし鍔だから軽いし、彩乃さんにいいと思います。私は他にも持っているし」
「いいんですか!」
「いいですよ。あ、ただし帰ったら…ですけど」
「はいっ! 嬉しいです」
彩乃は飛び上がらんばかりにして、喜んでいる。そして、はっと気付いたようにして両手を叩いた。
「あ、じゃあお返しに、総司さんにも鍔、プレゼントさせてください」
「え? ふあぜんと?」
「あ、えっと、贈り物?」
彩乃が小首をかしげる。とたんに総司が手を振った。
「いいですよ。いらないです。そんなつもりじゃないですから」
「で、でもぜひ! この鍔を貰う代わりに、別な鍔を贈り物にしたいんです」
ね? と僕に向かって、彩乃は笑う。きっとクリスマスプレゼントのつもりなんだろう。なんとか言って…とその目は僕に訴えかける。
ま、いっか。
「あ~、総司。いいんじゃないかな。僕も彩乃も君にお世話になってるし、たまには贈り物ってことで」
「え!」
固まった総司を置いて、僕と彩乃は総司の鍔を選び始めた。




