第13章 内緒のクリスマス(1)
「ジングルベール、ジングルベール、るるるーる、るん」
僕の後ろを歩く彩乃の鼻歌が聞こえてくる。
ここは注意するべきなのか、それとも放っておくべきか。
「一体何の歌です? それ。聞いたことがない節回しですね」
彩乃の横にいた総司が、一言で彩乃の歌を止めた。
「あ、えっと、なんでもないんです」
無意識に歌っていたらしい彩乃が、慌てて歌を止める。が…しばらくすると、今度はハミングだけで歌い始める。
よっぽど嬉しいんだな。ま、ハミングならいっか。
あの脱走未遂の後、前にもまして総司が僕らに付きまとってくるようになった。まあ、目の前で脱走されかけたのは、彼にとってかなりショックだったらしい。
あの場には居なかったことになっているから、何も言ってこないけどね。
そして今日はクリスマスイブ。師走の二十四日。太陰暦の中で、どこがクリスマスか分からないけど、まあ、この京ではこの日っていうことで、彩乃との買い物に総司がついてきている状態だ。
お互いにプレゼントを用意しようとしたけれど、結局、彩乃は僕に何をプレゼントしていかわからず、一緒に買い物に出ることになった。
僕のほうは…といえば、実はもう用意してある。
「お兄ちゃん、何欲しい?」
「ん~」
僕は考え込んだ。別に彩乃がくれるならなんでもいいんだけどね。持ち歩くなら、小柄か、または刀の鍔でもいいかもしれないな。
「小柄か、鍔か、刀に合うものがいいかな」
そういうと、総司が反応した。
「え? 俊、小柄を買いに行くんですか? だったらいい店を知っていますよ!」
なんで買い物に行くかとか、全然分かっていない総司は、単語だけで推測して、店に案内しようとしてくれている。助かるからいいか。
総司の案内でついた店は、刀屋で、小道具類なども充実していた。桐箱の蓋を開いた形でディスプレイされている鍔や小柄。笄。それに拵えの金具。思わず彩乃も、感嘆の声をあげる。
「凄い。かわいい~!」
え? なんでかわいい? あ…。そっちか。
彩乃が見ているほうを見ると、そのコーナーの鍔には、ウサギや雀があしらってあった。たしかに可愛い。丸い鍔の狭い空間なのに、よくまぁ器用に作ったもんだ。竹やぶに雀が遊んでいたり、鳥が飛んでいたり。なかなか凝っている。
「おにいちゃん、こんなのどう?」
彩乃が指差したのは、ぐるりとウサギが輪を描いているウサギだらけの鍔。こんなのもあるんだな。
「それは…。うーん。ちょっと可愛すぎるかな」
「わたしが使おうかな」
「彩乃さんには重過ぎるんじゃないですか?」
横から心配する総司。まあ、結構厚みもあるし、重そうだけど…彩乃だからね。
「大丈夫ですよ! 総司さん。わたし、結構力があるんです」
結構どころか…まあ、言わないけど。にこにこと微笑む彩乃に総司が眉をひそめる。
「でも腕を壊したら、しょうがないですからね。それに彩乃さんには、もう刀はいらないで…」
いらないですよね…と言いかけて、言いよどむ。そうなんだよね~。本当は彩乃は隊士から外れるはずなのに、今だ隊士のままだ。これは、近藤さんが時期を約束してない…とか言って、渋っているため。
まあ、風邪とか体調を崩して休む人が多いなか、僕らは休まないからねぇ。そういう意味では貴重なんだろうけど、かなり騙された気がする。
※Jingle Bells は1857年の曲・歌で著作権は切れていますが、日本語の訳詩については権利関係が不明なので、出だしの英語部分のみ彩乃に歌わせてます。




