間章 正体
------ 土方視点 -------
「だ~。イライラしやがる!」
かっちゃんの部屋じゃなかったら、物に当り散らしてんな。
どなった俺をかっちゃんがなだめる。
「まあまあ」
あいつらのせいだ。わけのわからねぇあいつらの。かっちゃんまで丸め込まれやがった。
かっちゃんからの召集を受けて、俺と総司、斉藤がかっちゃんの部屋に集まった。そして言われたのは、今後宮月兄妹の正体を探るのは止めようっていう話だった。
「まあまあ」
総司が俺の背中をなだめるように叩く。
「うっせぇ。おめぇは腹が立たねぇのかよ」
そういうと総司は情けない顔でへにゃりと笑った。
「そりゃぁ…少しは。でもそれよりも情けない気持ちのほうが一杯です」
斉藤はいつもどおり無表情なまま座り込んでいる。
「今後は探らない。でも、なんとなく分かった気がするんだよ」
かっちゃんが言った。
「何がだよ」
「彼らの正体」
俺たちの視線がかっちゃんに集まる。
かっちゃんの目が面白いことを思いついたように笑っている。そして口を開いた。
「彼らの特徴は?」
「やけに気配に聡いし、気配を消すのも上手い」
ぽつりと斉藤が言った。
「剣が強いのに隠していますね」
総司が言う。
「妙な知識を持っていやがる」
俺も言った。
「体捌きは一流だ」
斉藤がもう一つ言う。
「たまに彼らだけで通じる言葉を使っていますね。そういえば」
総司ももう一つ足した。
俺たちの言葉を聞いて、かっちゃんがニヤリと嗤う。
「ほら。そういうのが当てはまる正体があるんだよ」
ん? さっぱりわかんねえ。
総司がポンと手を叩いた。やけにかわいい仕草をしやがる。どっかで見たような仕草だ。
「わかりました」
「なるほど」
隣で斉藤まで呟く。
「だろ?」
かっちゃんが得意そうに言った。
いや、俺、わかんねぇんだけど。
「トシもわかっただろ?」
そう言われて、思わず、
「お、おう」
と返事した俺。
「なるほど。だから正体がバレそうになったから…」
「そう。彼らは追いつめちゃいけない」
総司とかっちゃんが分かり合えているように会話する。
もどかしいが、わからねぇものはわからねぇ。
「だからトシ」
「おう」
「彼らの正体はそのままにしておこう」
「お…おう」
…って、俺だけか? わかってねぇの。
なんだよ。一体…。
うー。
わかんねぇ。
俺が奴らの正体に思い至ったのは、それからしばらくしてからだった。




