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第12章  選択(7)

「近藤さん…」


「やあ。宮月くん。彩乃さん」


 近藤さんは穏やかな笑みを浮かべながら、僕たちの前に立った。


「塀を乗り越えて、どこへ行く気かな」


 僕は彩乃を背に庇いながら、近藤さんの前に立った。


 『脱走者は死罪』


 頭の中に浮かぶけど、いざとなれば、ここで走って逃げてもいい。どうせ僕と彩乃のスピードには誰もついて来られない。


「近藤さんこそ、どうしたんです。こんなところで」


 腹が据わってしまったために、僕は逆に落ち着いて聞き返した。


 近藤さんは片方の眉だけあげて、『おや?』という表情をする。僕の問いが意外だったのだろう。


「勘かな」


「勘ですか?」


「そう。こういう勘ってよく働くんだよ」


 近藤さんはそう言って、僕に笑いかける。


「君たちは、散歩だよね?」


 近藤さんの言葉に、一瞬目を見開いた。


「そうだろう? 今日は、まあ、三日月だけど、冴え渡った綺麗な夜空だし」


 近藤さんが空を見上げる。つられて見上げると細い三日月が僕の目に映った。


「そうだよね?」


 これは、そうだと答えろということだろう。僕が耳を澄ました。近藤さん以外に、二つ。いや、三つか。呼吸音が聞こえる。


 近藤さんが、僕の耳元に口を寄せた。


「なんていうかな。私の勘が言うんだよね。君たちを引き止めろってね」

 

 勘か…。まいったね。


 たまにそういう人間がいるんだよね。勘が鋭い人間。別に頭で理解しているわけじゃなくて、感覚でわかってしまう人。


 実は結構厄介だ。僕らの能力の使いどころを感覚的に分かっていたりするからね。能力そのものを理解していなくても、ここぞというところで僕のような奴に大事な仕事を押し付けたりする。


 今までの采配を思い出して、僕は納得する。ほら、がむ新くんの件とかさ。総司と斉藤はともかく、なんで近藤さんまでOK出したんだろうって思ってたんだけど。


 それこそ近藤さんの勘だったわけだ。まいったね。



 僕が答えに詰まっていると、彩乃がちょいちょいと僕を引っ張った。


「お兄ちゃん…ここにいようよ」


 微かな声。本当に微かな声でそう言った。


「彩乃?」


「お願い」


 はぁ~。ここでそう来るか…。


「近藤さん、実はお願いがあるんです」


 僕は小声で切り出した。小声だけど、多分、周りに聞こえる大きさで。


 近藤さんが、やはり意外そうに僕を見る。


「一つは彩乃を隊士から外してください」


 お兄ちゃん…と彩乃が抗議の声を上げたけど、それは無視する。


「それから、その後も僕と一緒の部屋で、あの部屋を占拠させてもらうし、また屯所を移ったとしても個室をください。でも僕は幹部をやって名前を残すことはしたくないです」


 近藤さんが僕を試すように見る。僕はさらに畳み掛けた。


「屯所を女人厳禁にするっていうなら、彩乃を男として置いておけばいい。実は男でしたって言ってもいい」


「君はむちゃくちゃだな。ここでそんな要求が通るとでも?」


「あなたは僕が欲しいんでしょ?」


「まあ、君が居たほうが良さそうだっていう勘だね。でも、それにそんなに価値があるとでも?」


「あると踏んでいるでしょ?」


 僕と近藤さんの視線が合う。


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