第12章 選択(6)
「どうするの?」
彩乃が僕を不安そうに見た。だからにっこりと笑ってみせる。不安そうな顔をさせるのは本意じゃない。
「ま、いくつか方法はあるよ。その一、できることを認める。まあ、隠していた理由を考えないといけないけどね。その代わり、色々引っ張り出されそうだよね~。その二、今日の記憶を消す。それをやるためには、今日の巡察のメンバー全員に会わないといけないけど。まあ、できなくはない。その三、このままここから逃げる」
「逃げちゃうの?」
「そう。まあ、前にも言ったけど、僕は長くここに居るつもりはなかったからね」
彩乃が難しい顔で考え込む。
彩乃にはあまり似合わない表情だ…とか言ったら怒るかな。
「あのさ、彩乃、ここを出よう」
「え?」
「僕に考えがあるんだ。君を路頭に迷わすようなことはしない」
そう。ずっと考えていたことだった。もう彩乃が斬られるところも見たくないしね。これは言わないけど。
ここを出て、別なところで生活をすること。ちょっとした当てが実はある。人も斬らなくてすむ。…多分。
「でも…総司さんと離れちゃうの? それにみんなを守る約束は?」
僕は彩乃の頭をなでた。
「遅かれ早かれ、総司たちとは別れることになっていたから、それが少し早まっただけだよ」
彩乃が寂しそうに俯く。
「さぁ、支度して」
僕はそう言うと、身の回りの品を次々と風呂敷で包み込んだ。まあ、蒲団を除けば、そんなに量はないしね。着物類は圧縮してしまえば小さくなる。
「彩乃、小判もね」
彩乃はしぶしぶという風情で、畳の下の小判を取り出した。二人分の給金はそれなりな量になっていて、ずっしりと重い。それも風呂敷を二重にして包んで、さらに着物の間に入れる。
蒲団は置いていくしかないね。
夜の帳が下りてくる。
逃げ出すなら夜中より、まだ人がいる時間がいい。木を隠すなら森の中。人を隠すなら人の中。それに僕らの本来の活動時間である夜が長く使えるほうがいい。
僕たちは蒲団をきちんと置くと、それぞれの手に荷物を持って、そっと部屋を抜け出した。彩乃はまだ納得していない表情だけど、それでも黙ってついてくる。
「お兄ちゃん、それ持とうか?」
彩乃が小判を山のように入れた風呂敷に手を伸ばす。実際、これ、結構重いんだよね。しかも彩乃だったら軽々だって分かってはいるんだけど。
「疲れたら代わってもらうから」
そう言って僕は自分で持った。なんかね。女性に重いものを持たせるっていうのが、こう心理的にできないんだよね。
そっと家屋を抜け出して、塀を越えて、裏道に降り立ったときだった。
「どこへ行くのかな」
路地に聞いたことがある声が響く。僕たちはその場で足を止めた。
声に殺気はない。
声がした方向に振り返ると、塀の角から出てきたのは、近藤さんだった。




