第12章 選択(5)
「前にもありましたけど、なぜ出来るのに隠すんです? 私は、ずっと、俊は人を斬れないんだと思っていました。斬ったことがないから、怖いんだって。でも違うじゃないですか。朝稽古だって、なんであんな風に、わざと出来ないフリをするんです」
「え? そんなことな…」
「ごまかさないでください! 私だけじゃない、幹部のみんなは気付いているんです。俊が本当は剣を使えるし、もっと強いってこと」
僕は思わず目を見開いて、まじまじと総司を見た。
「な…んで…幹部…が?」
「水臭いじゃないですか。人それぞれ、色々あるでしょう。誰だって言えないことの一つや二つありますよ。でも、そんなに色々隠すことないじゃないですか。私にぐらい認めてくれてもいいじゃないですか。そんなに信用できませんか? 私はそんなに頼りないですか?」
どんどん話がずれている。僕の真っ向斬りから、僕たちの秘密のほうへ。
「あ~、総司?」
「なんですか?」
「なんか、違う話になってるんだけど」
総司に睨まれた。
「だから! なんで、そんなに自分の腕を隠すんですか! 強いなら強いでいいじゃないですか」
うーん。困ったなぁ。僕はなんて答えたらいいんだろう。
彩乃は黙って僕たちのやり取りを見つめている。
「ごめん、総司。僕たちに時間をくれないかな」
「何のじ」
時間ですか! と言いかけた総司の目を見て、僕は力を使った。すとんと総司の動きが止まる。
ふぅ。止めたのはいいけど、どうしようかな。
「お兄ちゃん…総司さんの記憶を消すの?」
「うーん。どうしようか迷ってる」
「全部消しちゃうの?」
彩乃が不安そうに言った。それに対して、僕は軽く微笑んだ。
「そんなことはしないよ。でもなんとか、この場を切り抜けないとね~」
僕は腕組みをして、突っ立ったままの総司を前に考え込む。
総司の記憶だけ消してもダメだ。あの発言は、左之も聞いている。しかも彩乃の手当てをするために時間が立っているから、ヘタをしたら土方さんや近藤さんにも今日のことと一緒に報告が行っているだろう。
「総司、僕たちは今日、疲れきっている。だから眠りたいんだ。だから今日はこの話は止めよう」
総司はこくんと頷くと、ふらふらと帰って行った。
まあ、これで一日、稼げるよね。




