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間章  落ちる

--------総司視点----------------


 奪われた私の剣を持つ、さまになった構え。これは一朝一夕で身につくものではない。ましてや男とは力が違う女子の身なら、ここまで鍛えるのにどれだけの時間が必要だったか。


 油断をしていたとはいえ、素人に抑えられるほど自分が弱いとは思わない。それほどにいつのまにか身体が押さえられていた。飄々とした見た目と、この男も違うということだ。


 だから実力を見るといっても手加減をするつもりだった。ここに居たいのであればいればいい。


 だが対峙してみて分かった。強い。女だからといって甘くみていたらやられる。怪我をさせないように力加減はするとしても、向き合うならある程度本気でやる必要がある。


 脇構え。下段から狙ってくるのだろうと予測しつつ、こちらは正眼の構えを取る。攻守を備えた構えだ。


 お互いに隙を狙うかと思えば、次の瞬間に目の前にいた。しかもいつの間にか木刀は上段から振り下ろされる。反射的に身体を捌いた。考えてのことではない。考える間も無かった。


 これだけの速さで打ち下ろせるものがどれだけいるだろうか。驚いているうちに、今度は正面から袈裟に振り下ろしてくる。打ち返せば、その力を利用して反対側に打ち下ろす。本身(ほんみ)(切れる本当の刀)ではこうはいかない。がっちりと刃が組む形になるだろう。


 木刀ならではの動きだ。木刀を使い慣れているのだということが伺えた。対する私は、このような木刀特有の動きはあまりやったことがない。実戦では意味がないからだ。


カンカンと木刀同士が打ち合う音が響く。それがどんどんと早くなっていく。信じられないことに、こちらが追い詰められていた。目に見えないぐらいの速さになり、打ち下ろされた。一瞬、手の内がぶれた。


 その一瞬の隙をついて、彼女の木刀が胴を薙ぐ。やられた。


 威力も申し分ない。むしろ女子にやられたと思えない威力だ。防具をつけていなければ、しばらく動けなくなっていたかもしれない。


「ありがとうございました」


 彼女が防具をはずし、きちんとお辞儀をした。長い髪が彼女の頭に従って顔を縁取るのが見えた。


「ありがとうございました」


 こちらも一言お礼を言うと、顔をあげた彼女がにっこりと笑った。


 屈託なく、嬉しそうににっこりと。


「すごく強いんですね。だから無理やり、け…どぅの形をやってしまいました」


 何の形と言ったのか、聞き取れず聞き返した。


「なんの形ですか?」


 とたんに彼女が困ったような顔になり、ややうつむいた。見えている頬と耳が少し赤くなっている。


「えっと…なんでもないです」


 彼女が顔を上げた。うっすらと染まった頬と、人形のように整った顔。そしてこちらをまっすぐに見ている瞳。その唇が嬉しそうに微笑んでいる。


「凄く…楽しかったです。またお願いします」


 そしてもう一回、にっこり。


 ああ。もう駄目だと思った。何が駄目かわからないが、駄目だ。


 あの彼女の凛とした剣捌きと、この笑顔にやられてしまった。そんな気がした。


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