第12章 選択(3)
「ひっでぇな。こりゃ」
左之は、僕が斬った浪士の死体を見ていた。見事に切り口が人体解剖図みたいになっている。
「まあ、見事ですねぇ」
総司は、死体の傍に屈みこんで切り口を覗き込んだ。他の隊士は、あまりの凄惨さに遠巻きだ。
「あ~、加減できなくて」
そう、僕が言い訳がましくいうと、左之と総司が目を剥いた。
「加減?」
「今まで加減してたんですか?」
あ、しまった…。
「え、いや、あの…。適当にやったら、そうなっちゃって…」
疑いの目で見ている総司と、左之。
「これは、適当でできるものじゃないですよ」
総司が僕に言う。その目は疑いを含んだ目だ。今までの手抜きを見破られた感じ…。僕はまっすぐな視線に耐えられなくて、目をそらした。ほぉっと総司が深く息を吐く。
「彩乃さんの傷も心配ですし、一旦屯所に戻りましょう」
そう言われて、僕と彩乃はまるで囲まれるようにして帰り道を歩く。
屯所に着いたところで、とりあえず彩乃の傷の手当を理由に、僕たちは部屋に戻った。後ろから、じっと総司が見ているのを感じる。
「彩乃、とりあえず新しいさらしを巻いておいて」
僕は障子を閉めながら、ひそやかな声で彩乃に言った。
「え? でも、もう大丈夫だよ?」
「しーっ。声が大きいよ。どっちにせよ、傷がついていたら、人間だったらまだ治らないんだから、とりあえず、傷口を見せないためにもさらしでごまかして」
彩乃はようやく状況が飲み込めたようで、こくんと頷くと、僕に背を向けて、さらしを巻きなおす。目を逸らした先、足元に落ちた古いものには、彩乃の血が盛大についていた。
「ごめん。痛かったよね」
僕がそう謝ると、彩乃の動きがわずかに止まる。
「なんでお兄ちゃんが謝るの?」
「だって、守れなかったから」
「守ってくれたじゃない」
そう笑みを含んだ声音で言う。そのとき、廊下を歩いてくる足音がした。二人分だ。
「俊、彩乃さん、いいですか?」
総司の声がした。ちらりと彩乃を見ると、もう着替え終わっていた。僕は足元に広がる血のついたさらしと、彩乃の着物をかき集めて、血が見えないように部屋の隅にやってから答える。
「どうぞ」
総司と一緒に、すらりと背の高い、色黒の男が入ってきた。二十代後半か、三十になったぐらいか。何回か顔を見た気がするから、隊士だろう。
「彼のことは知っていますか?」
「いや、顔ぐらいしか…」
「山崎さん。医術に通じていて、たまたま屯所に戻ってきていたので、つれてきました」
ぺこりと山崎さんが頭を下げた。
山崎…。




