第12章 選択(2)
のんびり歩く僕らの脇を子供たちが風車をまわしながら、走り抜けていく。寒い中でも子供って元気だな~と思った瞬間に、そのうちの一人が転んだ。
「うぇーん」
泣き声が響く。そして、それに重なって…
「失礼ですが、どちらの方々かお教え願いたい」
総司の大きな声が響いたかと思うと、ばらばらと数人の侍が、抜き身の刀を持って走り出てきた。どうやら出会い頭に不逞浪士か、長州藩か、とにかくそういうのと会ってしまったらしい。
「おーい、面倒だからさ、斬っちまおうぜぇ」
左之の声も響く。すぐに応戦態勢を取る僕ら。ところが場所が悪い。さっきの子供が起き上がったすぐ傍で、斬りあいが始まっていた。
「危ない!」
とっさに彩乃が子供をかばう。走っていく彩乃が逃げていくように見えたのだろう。その後ろで剣を構えた侍が追いかける。
その動きを見て、僕は慌てて刀を構えながら、侍を追いかけた。でも遅かった…。彩乃の背中に白刃が走って、血が飛び散る。
僕は何も考えず、力任せに、その浪士の頭から真っ向に斬り下ろしていた。尻尾を使わなかっただけでも褒めてもらいたい。
その浪士は、頭から尻まで見事に左右真っ二つに分かれて、血を噴出して倒れた。多分。
そんなのを見ている余裕は無かった。手ごたえが無くなったところで、血の雨の中を彩乃に走り寄る。
「彩乃!」
背中は袈裟に斬られて、斬られた羽織と着物の間から白い肌に見事な刀傷が浮き出ていた。皮膚が切られ、肉が切られ、そして骨が見える。
酷い…。今頃になってふつふつと殺意が沸いてくる。だけどすでに殺しているものを、もう殺しようがない。
それより彩乃だった。僕は急いで自分の羽織を脱いで、彩乃の背にかけた。傷口を晒しているままにするわけにいかない。
「大丈夫?」
「うん…かなり痛かったけど…今は平気」
彩乃の腕の中では、子供が恐怖と驚きに満ちた表情で彩乃を見つめている。
「気をつけて、さあ、行って」
彩乃が腕を広げると、子供は驚いた表情のまま、走り去っていった。
「彩乃さん!」
総司が駆けつけてくる。
「大丈夫ですか? 怪我は?」
「ちょっと掠っただけです。大丈夫です」
彩乃はそう答えた。本来ならかなり酷い傷だ。でも僕たちの体質なら、もう半分はふさがっている。
「斬られたように見えたので…無事でよかった」
総司がほうっと詰めていた息を吐いた。周りを見ると、すでに他の浪士は斬り捨てられたか、逃げたか、どちらかだった。




