間章 壬生狂言
-------- 平助視点 -----------
壬生寺を通りかかったら、にぎやかな御囃子が聞こえてきた。
「なんだ、ありゃ」
カンカンという音の合間に、ドンドンという音、そして笛の音色だ。
「能っていうのには、元気だよな。狂言か」
がむ新も一緒になって音の正体を考えながら、境内に足を踏み入れれば、舞台の上で稽古をする人々の姿。
稽古だって分かるのは、衣装を着けてないからだ。
「ありゃ、壬生狂言だな。ほら、あそこにいるのは八木さんだ」
見れば稽古をまじめな顔で指導していたのは、俺らが世話になっていた八木家の主人だった。
そういや、八木さんちは筆頭宗家だっていう話だった。こうして見ると確かに貫禄がある。
「面白そうだが、衣装や仮面がないと、役回りがわかんねぇな」
がむ新が言うと、左之も続く。
「稽古だから、話が切れてわからないっていうのもあるよな」
確かに。同じ動作を繰り返しているのを見ると、やり直しをしているのだろう。こうなると話の筋を追うのは難しい。
「いつやるんだろうな」
俺が呟けば、がむ新が返してくる。
「この前、やってなかったか?」
「本当か? 俺は知らねぇぞ」
左之も知らなかったらしい。
「音が聞こえていたけどな」
がむ新の言葉に俺が首を傾げれば、がむ新は一人で納得したように頷いた。
「あれだ。俺が腹痛起こしているときに、おめぇらが島原へ行った日だ」
そういえば、そんなことがあったような、なかったような…。
「よく覚えているな。お前」
俺が呆れれば、がむ新はにやりと笑った。
「おう。置いていかれた恨みだ」
「何言ってやがる。お前の腹のせいだろうが」
左之はがむ新の腹に軽くこぶしを当てた。がむ新はわざと痛がってみせる。そこからは、俺と左之が、いかにがむ新のいない島原が楽しかったかという話をして、がむ新をからかいながら屯所まで戻っていった。
後で聞いた話だが、壬生狂言っていうのは煎餅が客に向かって投げられたり、綱渡りをしたり、山積みになった素焼きの皿を割ったりと、かなり派手らしい。
次の機会には、がむ新と左之を誘って見に行ってみるか。




