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第11章  冬といえば(10)

 夜になって、また熱が上がりはじめた総司を心配して、彩乃が枕元で額の布を代えている。


「彩乃? そろそろ寝るよ?」


 若干狭いけれど、蒲団は三つ。今日は気兼ねなく眠れる。


「お兄ちゃん、場所変わって。わたし、総司さんの頭の布を替えたいから、隣がいい」


 僕は彩乃の言葉に眉をひそめたけど、まあ、いいか。


 黙って蒲団の場所を入れ替える。


「ありがとう」


 そう言って、彩乃は自分の蒲団にもぐりこんで、総司の顔をじっと見ている。


「彩乃。大丈夫だから。心配しなくても」


「うん。でも心配なの」


 結局、総司は数日間、僕らの部屋にいた。


 いや、正確に言うと今もいる。


「総司さん、眠れていますか?」


 ひそやかな彩乃の声がした。まだ寝入りばなの時間。 結局あのまま、翌日以降も彩乃が真ん中に寝ている状態で蒲団が敷かれている。


「いえ、なかなか眠れなくて」


 息だけで話す総司の声もする。


「じゃあ、しりとりでもしましょうか?」


 と、彩乃。


「しりとりですか?」


「はい」


「じゃあ、始めますね。しりとり! り…りんご」


「ごま」


「まめ」


「めだか」


「カメラ」


 え? 僕は蒲団の中で固まった。


「ん? 彩乃さん、『かめら』ってなんです?」


 彩乃も間違いに気づいたらしい。


「あ、カメです。カメ」


「あ、亀ですね。はい。じゃあ、目抜き(刀の道具の一つ)」


「き…えっと…あ、思いつかない…じゃあ、キスで」


「鱚(きす:魚)ですか…ん…鋤(すき:農耕の道具)です。」


「えっ! キス、好きですか?」


「え? はい。彩乃さん、すきですよ」


「え…。えっと。え?」


 彩乃が焦っている声がした。


「彩乃さん、すきです」


「え・・・」


 固まる彩乃。


「鋤です。だから『き』です」


「あっ。ごめんなさい。勘違いしました。しりとりで言ってるんですよね?」


「はい? しりとりですよ」


「そうですよね! びっくりしました!」


 彩乃がほっとしたような声を出す。


 この場合、僕、どうしたらいいんだろう? ここは黙って聞いておくだけにしたほうがいいよね。うん。



 しばらくしりとりは続いていたようだけど、僕は二人のひそやかなやり取りを聞きながら、眠りに落ちていた。


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