第11章 冬といえば(7)
「でも…。総司さんだから」
「総司もいつかは死ぬよ」
ばっと彩乃が顔をあげて、信じられないことを言われたような顔をして僕を見る。
この前、人を殺すという話をしたばかりだけれど…。でもそんなものだ。
知らない人を殺すのは簡単だ。特に僕たちにとっては、自分が死ににくいこともあってゲームと一緒にできる。ところが、自分が知っている人、親しい人が死ぬのを考えたとき、人を殺すことは怖くなる。
両親が亡くなったのは彩乃が物心つく前だ。だから彩乃が物心ついて初めて意識した知り合いの死は、僕らが記憶を操作して孫として入り込んだ教会の老牧師が最初だった。
そのときにも彩乃は、わんわん泣いていた。それでも老牧師は歳がいっていたから、多少の覚悟はあったのだろう。
「みんな僕たちよりも先に逝く」
彩乃の綺麗な目から、水滴が落ちていく。僕は手を伸ばして、それを拭い取った。
「大丈夫。総司は、今は死なないから」
「ほんと?」
「ほんと。このぐらいじゃ、この男は死なない」
彩乃は傍らで眠っている総司を見つめた。ポツリと呟く。
「怖かったの」
「うん。分かる。分かってる」
「ごめんなさい」
「うん。次から気をつけて」
彩乃がこくりと頷いた。
さて、どうしようかな。
僕の蒲団は総司に取られたままだ。まあ、七輪があるからいつもよりは寒くないし、寝なくても平気だし。
総司の部屋の蒲団に寝るのは…うーん。避けたいな。一応、あのあと総司の蒲団も干したんだけどね。
「お兄ちゃん」
自分の分の蒲団を敷き終わった彩乃が僕を呼んだ。
「何?」
「一緒に寝よ?」
ぽんぽんと自分の蒲団を叩く彩乃。
「でも…」
言いよどむ僕に対して、彩乃は首をかしげた。
「昔は一緒に寝たよ?」
君の小さいときはね。
「あっちの家に居たときも、一緒に寝たよ?」
八木邸は狭かったしね。
「嫌?」
嫌っていうか、参ったな。
「寒いから…一緒に寝よ?」
僕はため息をついた。
そのため息をどう受け取ったのか、彩乃は僕のところに来て手を引く。まるで小さい子だ。
「はい」
そういって、掛け蒲団をどける。ま、いっか。僕は久しぶりに彩乃を腕の中に抱き込んで眠りについた。




