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第1章 隊士になります(9)
ふぅっとため息を一つつくと、僕は男を放置して立ち上がった。一応、悪い人に見つからないように、木の根元に寝せておく。
あ、おまえが一番悪いやつだっていう心の声にはスルーするから(笑)
傷はあらかたふさがったようだ。これだったら、『どっかでぶつけた』ぐらいに思うだけだろう。
「帰る?」
「帰る。あそこ、嫌だけど」
その言い方に苦笑する。
「僕は君がいるなら、どこでもいいよ」
リリアが眉をひそめた。
「俊にい、そういうのは恋人に言いなよ。いつまでも『彩乃。彩乃』って言ってるから、恋人、できないんだよ?」
僕は苦笑で返す。
本人は知らないけど、両親が死んで守ったのが妹だ。
恋人なんかと比べられるわけがない。ましてや人間の恋人なんて。
僕は両親と約束をしたんだ。妹を守るって。
僕の血に誓って、その約束を違えることは絶対にしない。
来たときと同様、僕たちは誰にも気づかれず、静かに、つかの間の我が家に戻っていった。




