第11章 冬といえば(5)
僕が難しい顔をして考え込んでいたら、後ろから声がかかった。
「宮月」
この声は土方さんだ。振り返ると一緒に山南さんもいた。
「どうした。難しい顔して」
そう問いかけてくる土方さんに僕は答えた。
「総司が熱出して、倒れたんですよ」
「ああ?」
「おや」
土方さんと山南さんが同時に顔をしかめる。
「今、僕の部屋に寝かせてます」
そう答えると、土方さんが眉をひそめた。
「なんでおめぇの部屋なんだよ」
「いや、総司の部屋、病人が寝ている環境じゃなかったんで」
そう暗に総司の部屋の状況を言うと、呆れたような声が返ってきた。
「昔からあいつは自分のことに頓着しねぇ」
いや、それ以前の問題だと思うけど。
「とりあえず、僕、薬を手に入れてきます」
そう言って、出かけようとすると、土方さんが止めた。
「薬なら、うちの薬を飲んでりゃ、治るだろ」
「いえいえ。石田散薬は打ち身の薬でしょう」
山南さんがすかさず土方さんに突っ込む。
「なんでも効くんだよ。秘伝の薬っつぅもんは」
あ、なんか怪しい。僕は二人に曖昧な笑みを残して、その場を立ち去った。
このままいたら、風邪薬の代わりに打ち身の薬を飲ませちゃいそうだ。
こんなときにはこの人だ。
「善右衛門さん!」
僕は善右衛門さんの店に駆け込んだ。
番頭さんらしき人はぎょっとしたようだったけど、僕の声を聞きつけた善右衛門さんが、すぐに出てきてくれた。
「薬を探してて」
「薬ですか?」
「屯所の仲間の一人が熱を出して倒れちゃったんですよ」
善右衛門さんは、首をかしげて考えこむ。完全に彩乃の癖がうつったよね。
「だったらお医者様のほうがいいんじゃないですか?」
「いい人いる?」
「まあ、人気のある医者はいますね」
「信用できるの?」
「さぁ?」
善右衛門さーん。それじゃあ、困るって。
「薬だったら、薬問屋ですけど、うちにも少し取り置きがありますよ。持って行きますか?」
「熱に効く?」
「お小夜が熱を出したときのものなので、大丈夫じゃないですか?」
そう言って、善右衛門さんは奥に引っ込んだと思ったら、すぐに出てきた。和紙の封筒を僕に渡す。
「こちらどうぞ」
封筒の中には、植物を干したものが入っていた。いわゆる漢方薬だ。
「えっと、どうやって飲んだら…」
一瞬、驚いたような顔をした後で、得心したように頷く。
「薬と無縁ですものね」
「そういうこと」
善右衛門さんは丁寧に飲み方を教えてくれた。四半刻(約三十分)ぐらい煮出して、それを二回に分けて、食事の合間に飲む。水の量についても指示された。それから鉄瓶では煮出さないことという注意も貰う。
善右衛門さんにお礼を言って、さらに煮出すための土瓶を扱っている店を教えてもらってから、善右衛門さんの店を出た。




