表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/639

第11章  冬といえば(5)

 僕が難しい顔をして考え込んでいたら、後ろから声がかかった。


「宮月」


 この声は土方さんだ。振り返ると一緒に山南さんもいた。


「どうした。難しい顔して」


 そう問いかけてくる土方さんに僕は答えた。


「総司が熱出して、倒れたんですよ」


「ああ?」


「おや」


 土方さんと山南さんが同時に顔をしかめる。


「今、僕の部屋に寝かせてます」


 そう答えると、土方さんが眉をひそめた。


「なんでおめぇの部屋なんだよ」


「いや、総司の部屋、病人が寝ている環境じゃなかったんで」


 そう暗に総司の部屋の状況を言うと、呆れたような声が返ってきた。


「昔からあいつは自分のことに頓着しねぇ」


 いや、それ以前の問題だと思うけど。


「とりあえず、僕、薬を手に入れてきます」


 そう言って、出かけようとすると、土方さんが止めた。


「薬なら、うちの薬を飲んでりゃ、治るだろ」


「いえいえ。石田散薬は打ち身の薬でしょう」


 山南さんがすかさず土方さんに突っ込む。


「なんでも効くんだよ。秘伝の薬っつぅもんは」


 あ、なんか怪しい。僕は二人に曖昧な笑みを残して、その場を立ち去った。


 このままいたら、風邪薬の代わりに打ち身の薬を飲ませちゃいそうだ。



 こんなときにはこの人だ。


「善右衛門さん!」


 僕は善右衛門さんの店に駆け込んだ。

 

 番頭さんらしき人はぎょっとしたようだったけど、僕の声を聞きつけた善右衛門さんが、すぐに出てきてくれた。


「薬を探してて」


「薬ですか?」


「屯所の仲間の一人が熱を出して倒れちゃったんですよ」


 善右衛門さんは、首をかしげて考えこむ。完全に彩乃の癖がうつったよね。


「だったらお医者様のほうがいいんじゃないですか?」


「いい人いる?」


「まあ、人気のある医者はいますね」


「信用できるの?」


「さぁ?」


 善右衛門さーん。それじゃあ、困るって。


「薬だったら、薬問屋ですけど、うちにも少し取り置きがありますよ。持って行きますか?」


「熱に効く?」


「お小夜が熱を出したときのものなので、大丈夫じゃないですか?」


 そう言って、善右衛門さんは奥に引っ込んだと思ったら、すぐに出てきた。和紙の封筒を僕に渡す。


「こちらどうぞ」


 封筒の中には、植物を干したものが入っていた。いわゆる漢方薬だ。


「えっと、どうやって飲んだら…」


 一瞬、驚いたような顔をした後で、得心したように頷く。


「薬と無縁ですものね」


「そういうこと」


 善右衛門さんは丁寧に飲み方を教えてくれた。四半刻(約三十分)ぐらい煮出して、それを二回に分けて、食事の合間に飲む。水の量についても指示された。それから鉄瓶では煮出さないことという注意も貰う。


 善右衛門さんにお礼を言って、さらに煮出すための土瓶を扱っている店を教えてもらってから、善右衛門さんの店を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ