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第11章  冬といえば(3)

 そして霜月(十一月)も深まったころ。僕は門のところで棒振りが売りにきた、みじん棒を齧っていた。


みじん棒って言うのは、微塵粉に砂糖を加えて固く煮詰めて、棒状にしたものだ。ねじり飴みたいな感じで、口に入れて溶けてくると、ねちゃねちゃする。


 なんで、そんなものを齧っているかというと、最近、総司と彩乃が甘いものを買うもんだから、棒振りが屯所に寄るんだよ。


 まあ買うのは二人と、甘いもの好きな島田さんが殆どなんだけど、出かけの駄賃とばかりに声をかけてくる。


 ところが今日は総司と彩乃は出かけた後だったし、島田さんは巡察中。誰も買う人がいないって断ったら、「家には8つを頭に5人の子供が腹を空かせて…」とかお涙頂戴の話をされて、思わず色々買ってしまったわけだ。


 どんなものか知らなくて、説明されて買ったんだけど、甘いわ、歯につくわ。うーん。微妙。まあ、残りは彩乃たちに押し付けよう。そう思って門の中に入ろうとしたときだった。


「おにいちゃん」


 彩乃の声がしたので振り返った。


「うっ」


 思わず声が詰まる。慌てて彩乃に走り寄って、その腕の中のものを受け取った。


「誰かに見られたら、どうするの」


「だって、だって…」


 泣きそうな顔で答える彩乃。僕の腕に感じる熱さ。確かに心配になるとは思うけど…。


 彩乃が軽々と抱きかかえてきたのは、熱で意識を失った総司だった。とにかく、周りに人目がないことを確認した。幸いこの周りにはいない。


「どこで倒れた?」


「壬生寺」


「そこからここまで抱えてきたの?」


「うん…。だって…総司さん、呼んでも返事しないし…」


 泣きながら答える彩乃。


「大丈夫だよ。熱が出ているだけだ。誰かに見られなかった?」


「子供たちが見てた」


「他には?」


「わかんない」


 僕は総司を抱えたまま、泣きじゃくる彩乃を見た。とりあえず説教は後だな。


僕は総司を抱きかかえて彼の部屋に向かう。彩乃に障子を開けさせると…なに、この部屋。


 

 床の上には薄っぺらい万年床。いつ干したか分からない。しっとりした感じだ。部屋に散らかる瓦版やら、なんだかよく分からない版画の紙。あんまりじっくり見るとヤバそうだ。


 脱ぎ散らかした着物。ついでに洗濯してないように見えるふんどしの山。反対側には数本の刀に、数枚の鍔に切羽。笄やら小柄。刀の手入れ道具一式が床に展開されている。


 僕はそのまま数歩下がって言った。


「彩乃、閉めて」


「はい」


 彩乃は…見たのかな? 見たよね。この部屋。そのままピシャリと閉める。


 くるりと方向転換すると、僕らの部屋に総司を運びこんだ。


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