第11章 冬といえば(1)
さくり、さくりと足元で音がする。
霜柱が立ち始めた。これも現代では見ることがなくなったよね~。地面の下に小さな氷の柱ができる現象だ。
その寒い中で、朝稽古をする。相変わらず僕は適当にやって、適当にやられていた。
このぐらいの運動じゃ、息は上がらないし、汗もかかない。なので適当に息を弾ませておく。いや~、何が大変ってこれが一番大変。
ぜーはーぜーはーやると、意外に腹筋を使うんだよね~。
そして当たっても痛くなさそうな打ち込みに適当に当たっておく。
でも最近、大分、みんなうまくなったからね。なかなか当たってもいい打ち込みっていうのが見つけにくい。まあ、僕もうまくなったっぽく見えるからいっか。
「腰入れてけっ!」
左之が怒鳴る。まあ、朝稽古は大抵、幹部が見てる。今日は左之の番。
「そんな腰使いじゃ、女に呆れられるぞっ!」
隊士から忍び笑いが聞こえる。
左之がいるときは、いつも少々シモ寄りだ。まあいいけど。
彩乃も一緒に稽古しているから、ちょっとだけドキドキして顔を見たけど、聞こえなかったかのように、目の前の隊士に打ち込んでいた。
いやいや。やっぱり強いね。彩乃は。小気味よく竹刀の音が響いている。かなり手加減している様子だけど。
それから食事して、次は斉藤との稽古の時間だった。
僕はだいぶ楽に剣を抜けるようになってきていた。まだちょっと削るけど、前みたいにお出汁が作れるほどじゃない。
お出汁って、何かって?
納刀するときに、鞘を刀で削ると、鰹節みたいな削り粉が出るんだよ。これがもう、凄かったの。稽古が終わったあとに、とんとんと鞘をひっくり返して、この削り粉を取るんだけど、これが鰹節だったら、めちゃくちゃいい出汁が取れそうだった。
ともかく、この状態は脱して、なんとか抜けるようなった。でもまだまだだけどね。
「握りこみが違う」
ぼそりと斉藤が言う。
「人差し指と親指は支えるだけ。握るのは小指と薬指だ。こうやって小指から握りこめば…」
そう言って、斉藤は僕の横で自分の刀に手をかけて、ゆっくりと抜いていく。そしてぐっと手に力を入れたとたんに、身体に対して横向きになっていた刀が、敵に向かって勢いよくまっすぐになった。
「こうやって飛ぶ」
つまり抜刀した瞬間に、しっかりと小指と薬指で握りこめば、勢いがついた状態で横一文字に斬りつけることができるわけだ。
うーん。理屈は分かるんだけど、握りこめって言われると、どうしても人差し指と中指に力が入ってしまって、結局、切っ先は飛ばない。




