第10章 遠い友情(2)
僕は善右衛門さんが戻っていったのと逆の方向へ、ふらふらと歩き始めた。
当てがあるわけじゃなくて、ただなんとなく歩いてみようかなぁって思っただけ。たまにはいいんじゃないかな。舗装されていない道の上、トンボが飛んで、和やかな景色の中を歩いていく。
途中で棒振りと呼ばれる、棒の前後に紐でつるした桶を担いだ行商に会う。前後の桶に色々入れて売るわけだ。家に居て買えるから便利だ。
ちらりと覗いたら、綺麗な飴細工が入っていた。飴細工っていうのは、熱で色とりどりの飴を伸ばして、動物の形にしたり、花の形にしたりしたもので。うーん。現代だと縁日にいたりしたよね。
桶の中においてあったウサギの飴が可愛くて、思わず二つほど買った。彩乃にあげたら喜ぶだろうし、きっと総司にも分けてあげたくなるだろう。
棒振りは、他にも季節の野菜や魚、唐辛子、醤油に油。日用品も売りに来る。面白いものだと傘の修理とか下駄の修理なんていうのも来る。
夕暮れ時の風はちょっと冷たいけど、まだ気持ちいいといえるぐらいの温度だ。足元では虫の声がしていて、カエルが鳴いている。空ではカラスの声が時たま聞こえる。
ぼーっと歩いていくと、向こうからせかせかとこちらに向かって歩いてくる人影があった。
あまり人の行き来のない道で、珍しいなぁと思ってみると、帯刀している。
無用のトラブルは避けたい。今日の僕は着流しで、刀もなく、髪もざんぎり頭だしね。何者か分からないって感じだけど。屯所からちょっとは離れたとはいえ、近いことは近いわけで。
狭い道で、相手を通そうと体を避けたら、相手が僕の前で立ち止まった。
「宮月殿!」
え? 知り合い? 思わずマジマジと顔を見る。
「あ~、松里殿…じゃなかった、吉田殿」
吉田稔麿じゃん。どうしてここにいるかなぁ。
「大丈夫なんですか? 長州藩は引き上げたんでしょ?」
その言葉に吉田殿は、にやりと笑った。
「まあ、そう思わせて、残っている者もいるのですよ。私のようにね」
それ、僕に教えちゃいけないんじゃないかな。本当は。ま、いいけど。
「ここら辺でウロウロしているのはまずいでしょ」
今は僕しかいないけど、他の新撰組隊士が来てもおかしくないしね。
「そうですねぇ。どうですか、一献」
そう言って、吉田殿は、くぃっと酒をあおるマネをした。
「いや~、今日は遠慮しておこうかな」
だってさ、仮にも僕も新撰組の端くれなわけで。つい最近、荒木田さんたちが殺されたことは記憶に新しく…。うーん。
僕の思案をどう受け取ったのか、吉田殿は、
「金子なら心配せずとも」
と、トンと自分の胸元を叩いた。
「先日のご恩もあるので、ぜひ」
そういうと、僕の腕を取って、歩き出した。相変わらず強引だ。
いいのかなぁ。これ…。ま、いっか。




