第9章 新撰組(8)
僕らの前に荒木田さんと越後さん。後ろに御倉さんと松井さん。なんか護送されてる感じ?
僕は正直迷っていた。がむ新くんこと、永倉新八といえば、こんなところで命を落とす人じゃないはずで。でもここで助けちゃっていいのかなぁとか。でも見殺しにするのも怪我させるのも嫌だよねぇとか。
ふっと荒木田さんの殺気が膨れ上がるのを感じる。先を見ると、木や塀の陰に人の気配を感じた。しかも殺気を伴っている。
「あ! がむ新くん。今日はこっちの道にしようよ!」
僕は明るく、がむ新くんに言った。
「ああ?」
がむ新くんが怪訝な顔をするのを放って、僕は荒木田さんに話しかけた。
「荒木田さん、たしか今日は荒木田さんにとって、こっちの方向って鬼門ですよ。昨日、八卦で占ったら、そう出てたんです」
荒木田さんが怪訝な顔をする。
「ちょっと僕、陰陽道もかじるんで。実は毎朝、自分と周りの人の分は占ってから来るんです」
いや、完全な嘘なんだけど、僕は懐に入れた紙をひらひらと見せた。
実はこれ、彩乃用の問題集を考えていた奴。途中だったのを懐に入れていただけだけど、筆記体で書いてあるから、なんか呪術ちっくでしょ?
荒木田さんがぎょっとする。
「こっちに方変え(かたがえ)しましょう」
そう言って、僕は荒木田さんの腕をとると道を一本変えた。京の街は碁盤の目だから、多少遠回りになってもいくらでも道はある。
こっちが道を変えたせいで、向こうは慌てたらしい。ざっと音がして先回りしようと走る音がする。まあ人間の耳には聞こえないかもね。彩乃ほどじゃないけど、僕も人間よりは耳がいいから聞こえるわけだ。
次の角でも待ち伏せている感じ。向こうはイライラしているようで、気配を感じるのが楽だ。しかもラッキーなことに向こうが風上。汗のにおいが漂ってくる。
「あ、こっちもまずいですよ。ここは御倉さんが病にかかる道です」
次は御倉さんがぎょっとする。
日本人って占いとか、好きだよね~。大体、陰陽五行の考え方をベースにして風水とかあるし。現代社会まで生きている習慣だからね。トイレはどっちの方角がいいとか、玄関はどっちの方角がいいとか。金色を置いておくとお金が溜まるとか。まあ、いいけど。
次は御倉さんの腕をとって迂回する。今度は待ち伏せのかなり手前で曲がったために、相手には気づかれなかったみたいだ。
よし。
僕は懐に紙を出して、ときどき確認しているようなふりをしながら、屯所に近づいていった。
「君が持っているそれ、それに書いてあるのか?」
松井さんが聞いてくる。
僕は紙をちらりと見せた。
「秘伝の方法なんです。占った結果を特殊な文字で記してあるんです」
大嘘。
実は横に書いてある筆記体を縦にして見せてるだけ。




