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第9章  新撰組(6)

「あ~、ちょっとトイ…いや、厠」


 僕はそそくさと部屋を出て、伸びをする。なんか緊張してるんだもん。


 ふと見ると、廊下の向こうからこっちを伺う侍がいる。


 あれか。あれが刺客か。うーん。今一つ及び腰に見えるのは、なぜだろう。僕はつかつか…と歩いていくと、その侍の前に立った。侍がぎょっとした顔で僕を見る。


「どうかしました? 何か僕に用ですか?」


 そう白々しく言ってやれば、いやいや…と言葉を濁しながら立ち去ってしまった。


 なんだかのんきだよね。


 僕が知っている刺客といえば、遠方から銃で狙って一発で終わりか、街中ですれ違い様に刺して仕留めるとか。もっとこう油断がならない感じなんだけど。荒木田さんたちといい、さっきのお侍さんといい、おマヌケな感じが否めない。


 お侍が立ち去ったほうを見れば、別なお侍がこっちを見てる。


 いやいや。怪しすぎでしょ。


 僕は思わず吹き出しそうになって、それからぐるりと廊下の端まで散歩して、ついでに厠に行ってから部屋に戻った。 

 

 さて、どうしたもんかな。


 結局、そのまま飲み続けて、ここに泊まることになってしまった。僕と中村さんは下の階。それぞれ別の部屋だけど。がむ新くんは上の階。


 がむ新くんを狙うつもりかなぁ。ここに寝ている必要はないし、念のためがむ新くんの部屋の傍にいて、張り付いているか~。


 僕は仕方なくそう決めると、そっと部屋を抜け出した。


 音をさせないように階段を登ると、そのまんま廊下の天井に張り付く。壁と壁の間に手足を突っ張らせて、とりあえずそこで固定。うーん。ちょっとどうにかならないかなぁと思って見ていたら、ちょうどがむ新くんの部屋の前にあたる天井の際の壁に窪みがある。そこに腰を引っ掛けた。少しは体勢が楽かな。


 暗い天井に張り付いて気配を殺していると、部屋の中のがむ新くんは動きまわっているらしい。まあ、眠れないよね。


 そうこうしているうちに静かになって…中村さんが来た。


「永倉先生」


 そう呼びかけて、部屋の中に入っていく。


「何か様子が変ですから。油断なさらないでくださいね」


 そう言って、一言、二言喋って帰っていく。見れば、それをまた端から見ている侍。

 いや、おかしいから。その状況。なんのストーカーですか。



 またしばらくして、人が来る…。

 と思ったら、総司だった。


「がむ新さん、気をつけてくださいね。あ、近藤さんから伝言です。彼ら四人は連れて帰ってきてくださいって」


 にこやかに総司の声が言う。


「ちなみに、俊はどうしてます?」


「知らねぇ。下の階だよ。寝てんじゃねぇの?」


 ここで見張ってあげてんのに…。まあ、いいけど。


「え~。俊が寝ますかね? あの人、結構真面目ですよ?」


 お、総司、いい事言うじゃん。


「意外に、その辺にいたりして。天井裏とか。あはは」


 当たらずとも遠からずです。


「じゃあ、失礼します」


 そう言って総司が去っていく。


 それを見守る侍。なんだかなぁ。見守っているってどうなんだろう。だったら、こういうことするの止めようよ。


 だんだんここに居るのがバカらしくなってきたころ、次の人が現れた。


「あ~、大丈夫かね? 永倉くん」


 井上源三郎さん。源さんまで来ちゃったよ。また一言二言話して、油断しないように言って帰って行った。


 そうしているうちに、巡察の途中だという左之も来て、間をあけてこれまた巡察の途中だという平助も来て、さらにしばらくして例の甘い者好きで巨体の島田さんも来て…。いやいや。みんな、それ、隙を見せるも何もないから。何もできないから。そんなに来ちゃ。


 それを侍は見守り続ける。まあね。これだけ来られちゃ、ちょっと刀抜く気になれないよね。


 僕は暗い天井に張り付きながら、ため息をついた。


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