第9章 新撰組(2)
二人して部屋に戻って、小判を前に思案する。この屯所って、セキュリティは無いに等しいからね。
さすがに幹部の部屋にもぐりこもうっていう命知らずはいないけど、大部屋だと物がなくなったなんてことはしょっちゅうだ。間違ったっていうのも含めてね。
僕らは二人部屋だからまだいいけど、でも障子一つで中に入れる。鍵なんてない。入ろうとしたら、いくらでも入れるし、家捜しできる。しかも彩乃と僕は同じ隊に属しているから見回り時間は一緒だし。いない時間が知れている。
「どうしようか…」
僕が座り込んで小判を見ていると、彩乃がポンと手を叩いた。
「いいこと考えた」
そしてひょいっと部屋の真ん中の畳を持ち上げる。
「ここはどうかな」
畳は30キロぐらい。まあ持ち上げられない重さじゃないけど、さらに一番真ん中においておいけば、全部持ち上げないといけない分、確かに大変か。
「じゃあ、分散管理で」
そういうと、僕は自分の分の四枚を畳の下の真ん中部分に並べた。
彩乃に次の畳も持ち上げてもらうと、彩乃の分の四枚も入れる。そうやって四枚の畳のしたに四枚のずつの小判を入れた。僕の手には、四枚の小判が残る。
軽く畳を戻すと、彩乃は自分の手を見て顔をしかめた。結構汚いよね。
残りの二枚はそれぞれを鴨居に隠す。つまり障子の上にあるレール部分の横板。その両端に一枚ずつ。
彩乃が僕を見てきょとんとした顔をした。
「ん~。鴨居から見つかれば、鴨居を一所懸命探すでしょ? 床が見つかったら、鴨居の分だけは見つからないかな~とか。こうしておくと、一つがダメになっても他で補える可能性があるからね。もっと分散させておいたほうがリスクが少ないけど…。この部屋の中じゃね」
ぐるりと見回すけれど、隠す場所が何もない。
「ま、こんなとこでしょ」
そして一枚を自分の懐にいれ、一枚を彩乃に渡す。
「折角だから、着物でも作る?」
彩乃は首を振った。
「なんで? 綺麗な着物とかたまにはいいんじゃない?」
ここに来てからおしゃれとか殆どしてないし。大体が古着で済ませている。
「それだったらみんなにお菓子、食べさせてあげたい」
みんな?
「一緒に遊んでいる子たち」
僕は彩乃の頭をなでた。
「いいんじゃない? でもお菓子に一両もいらないから、彩乃の着物も作ったらいいよ」
「お兄ちゃんは?」
僕は自分の服装を見た。まあ、いつもと同じ、黒に近い紺色系統の古着だ。地味目の色の中では、この色、結構好きなんだよね。
「僕はいいや。別に。まあ、洗濯したいから、着替えは買うけど」
「わたしもそれでいい」
そういうと彩乃は自分の分の小判を胸元のポケットに入れた。




