第8章 雨の長夜にすることは…(7)
翌朝、隊士たちが集められ、押し入ってきた賊によって、芹沢さんが暗殺された…と伝えられた。
黙って土方さんの言葉を聞いていた彩乃は、部屋に戻ってから不安そうに僕の前に立つ。
「お兄ちゃん」
ああ、言いたいことが実は分かる。
「賊じゃないよね…。わたし、昨日の夜、聞こえたもん…」
ぽつりと呟いて俯いた彩乃の頭を僕はなでた。
「分かってる」
「え?」
「有名な事件なんだよ。誰の声を聞いたかも、分かってる」
そう。芹沢鴨は、内部で粛清される。表向きは賊だけど、実際には壬生浪士組の幹部が関わっている。土方さんや、総司が…。
彩乃はぎゅっと下唇をかみ締めていた。
僕はひょいっと屈むと彩乃を下から見る。
「彩乃。芹沢さんは、自分の思い通りにならなかった女性の髪の毛を切ったんだって」
「え?」
彩乃が目を見開いて顔を上げた。
「帯を解けって言って、まあ、脱げってことだよ。それで嫌がった女性の髪を切ったんだ」
「酷い…」
「その上、その女性が働いていたお店で暴れたりした」
彩乃が黙り込む。
「芹沢さんは、お酒が入ると乱暴になる人だから…。まあ、そういうのが色々あったんだろうね」
「それで殺すの?」
「そこに僕たちは口を出せないよ。この時代の価値観だ」
まだ納得できていない顔の彩乃だったけど、仕方がない。
僕もこの時代の、この国の価値観はよく分からないところがある。
そのうちに慣れるのかな…。




