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第1章  隊士になります(7)

 ふと見ると豆腐が桶の中に豆腐が浮いている。


「この豆腐は?」


 というと、汁の具だという。



 あれか。おかずなしか。昔読んだ中世日本の文化論を頭の中で思い出す。たしか庶民の食事って、一日二回。しかも雑穀米と汁のみ。それにお漬物だったな~と。

 まさか江戸時代の末期までそれが続いているとは思わなかった。

 侮れない日本文化。せめて一汁一菜(飯・汁・おかず・おつけもの)は欲しかったなぁ。


 しかし侘しい…。これで何作れっていうんだよ~。普通に飯を炊いても足りないじゃん。



 彩乃は不安そうに僕の顔を見る。彩乃はガスコンロ使っても、料理が苦手だもんね。大体、食事を用意するのは僕で、彩乃は片付け専門だった。

別に久しぶりだけど薪でご飯を炊くとか、できないわけじゃない。大人数の料理を作るのも経験はある。


 そう。見かけは二十代半ばか、前半ぐらいに見えるけど、僕たちの種族は長寿だからね。僕だって外見どおりの年じゃないわけで、結構色々な経験をしている。

 あ、彩乃は18年前に生まれたから、本当にその年だよ。だから色々未熟なわけだ。


「何人前作ればいいんですか」


 一応尋ねると、沖田が天井に視線をやりながら、指を折る。


「えっと10人分ですかね。出かけちゃってる人もいるんで」


「僕たちも入れて?」


「ええ」


 うーん。別に僕たちはいいけどさ。食べなくても。

 でもこの量は、お腹空くでしょ。明日から何とかしてやろうと、我ながら余計なおせっかいだな~と思いつつ、心に決める。

 ほら、「一宿一飯の恩」とか言う言葉が日本にはあるんだよ。それだ。


 とりあえず彩乃にも手伝いをさせつつ、食事の支度をし、みんなで食べて、その日は終わった。



 

真夜中。皆が寝静まったのを見計らって、僕は起きだした。彩乃は僕のすぐ隣で、壁と僕の間に挟まれている。誰かが手を出そうっていっても、僕を乗り越えないといけないから、手は出せない位置だ。


 寝袋に入っているような、せまーい空間の中で寝ているから、必然的に彩乃を抱え込むようにして僕は寝ていた。と言っても、目を閉じていただけだけど。


 僕が目を開けると、彩乃もぱっちりと目を開けて、僕を見ていた。


 問うように僕がわずかに首をかしげると、彩乃も頷いてきた。周りを起こさないように、彩乃を抱えたまま、そぉっと起き上がる。気配を消して起き上がるのは得意だ。


 静かに戸をあけると、夜の廊下に出る。彩乃をいわゆるお姫様抱っこで抱えたまま、僕はそっと外に出た。



 月が綺麗だ。塀の傍まで行き、周りに誰もいないことを確認して、彩乃をおろすと、彩乃はちらりと僕を見てから、軽い足取りで塀を乗り越えた。僕もちょっと身体に力を入れて飛び上がる。このぐらいの塀だったら、楽に乗り越えられる。


 塀の外で彩乃は待っていた。僕は黙って川原に通じるほうの道を示す。変わっているといっても京都は京都だ。碁盤の目であることは変わらない。


 軽い足取りで彩乃が走っていく。僕はそれを後ろから追いかけた。




 やっぱり夜のほうが身体が軽い。別に日光で身体が溶けるわけでもないし、行こうと思えば海水浴もいけるけど、日焼けは酷いことになる。すぐ治るけどね。


 夜は素敵だ。僕らの目だと暗闇でもよく見える。なぜだか気持ちまで軽くなる気がする。


 そしてその夜の影響を一番に受けるのは…。


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