8節 悲劇の前の悲劇
漫画版改変に伴い大きく修正しました。
亮が医務室でラウラから状況説明を受けている頃、宇宙は艦長室でアクセル大佐に事の顛末を報告していた。艦長室といっても戦艦のような物々しさは無く、商業船のような事務的な内装に宇宙船に似つかわしくない古風な武器が飾られていた。
一見すると普通の応接室のようにも見える空間は、話の重々しさでヤクザの事務所と組長の様ななんとも言えないダークな雰囲気を醸し出している。
宇宙も亮に話すような砕けたしゃべり方ではなく、腹に力の入った声色になっている。
「大佐 只今戻りました
無事ジェルブレイクは完了いたしました」
それを聞いて、アクセル大佐は一安心した。
「よし、これ以上の追跡リスクは回避出来たわけか」
余計な心配をしなくて済むようになった大佐は本題に入った。
「宇宙お前の仕事は偵察任務だろ?」
「なぜ奇襲を仕掛けた!」
「お前を今回の任務に抜擢したのは、電脳ジェルブレイクで足がつかないと踏んだからだ」
「こんな事になるなら俺が行くべきだった」
何でこんな結末になるのか検討も付かないと呆れ果てるアクセル大佐に宇宙がこらえきれずに涙と共に漏らす様に語りだす。
「見てしまったんです!」
「IFDの被験体が収容さらた<<虚空の揺り籠>>に放棄された死体……」
普段明るい宇宙とは打って変わって悔しさにまみれた表情を浮かべる。
何かしらの事情が有るのだと察したアクセル大佐は頭ごなしに止めずに聴き手に回った
「それで……続けなさい」
「許せなくなって<<虚空の揺り籠>>のコントロールマシンにハッキング(物理)を仕掛けて皆を開放しました」
宇宙は目を瞑り今朝の出来事を回想しながら語る。
本日朝方ゲノミクスタワー内部に潜入した私は次期投入IFDの数とスペックを確認するためラボに潜入した。
そこで、それなりに権限の有る研究者と思わしき生体力場を感知したので、その研究者に生体力場の複製ターゲットを固定することで、研究者になりすましセキュリティを潜る策を思いつく。
"生体力場を確認します AC チェック『グリーン』入室を許可"
呆気無く扉は開く。
「うっ」
扉の開いた先には死体の山が有った
「これが全部不良品ということか」
「先日抜いた情報だとこれは全部アトラスシリーズの失敗作とということになるのね」
電脳内に保存していたデータを開く
「データーと突き合わせて報告か……」
試しに首筋にある有線接続端子に有線リンクを試みてみるか
「バックアップバッテリーは生きているみたいだ電脳アクセスは出来る」
これで簡単に死体とリストの照合は出来るように成った
「田村鉄男死亡……」
「愛川七海死亡……」
「小林裕也死亡……」
たしかカクスシリーズはアメリカ人で統一されてると資料に有ったから
もしかしてアトラスシリーズもアレスシリーズと同じく日本人をベースに
構成されているのか?
虚空の揺り籠の仮想世界はすべて一つの環境にアクセスするから
ウチがいた日本と同じ世界をみんな生きていたんだよね……
「川村健一死亡……」
「天音愛実死亡……」
この瞬間堪えてきたものが吹き飛んだ天音愛実は天音宇宙の妹で有った
「あっあああああ 間に合わなかった」
「あははははは!」
「間に合わなかった」
「ウチの友達も家族もこうして皆ごみになるんだ」
もともと感情の起伏が激しいソラには耐え切れなかった。
とうとうブチ切れてしまった。
「何が調査だ」
「そんなことをしている間にも次々死んで行くんだよ」
こうなったら全員開放して救う
コントロールルームは壁を挟んで隣。
ブチ切れたソラに静止の文字はなかった容赦なく壁をタダのパンチでぶち破る。
「何事だ」「事故か」慌てる研究員を横目に
タダの身体強化された空手チョップを首にお見舞いする。
IFDの身体能力で放たれたそれは、気絶どころではなく簡単に首が胴体から離れる。
数秒の間にすべての研究員は首をもがれて絶命した。
コントロールルームのマシンに首筋のポートから端末のポートに有線接続を掛ける
コントロールルームのマシンは虚空の揺り籠の仮想ネットワークとは物理的に接続していないあくまで虚空の揺り籠をコントロールするためだけのローカルネットワークマシンだった。それは有線接続してみてすぐに分かることとだったIFDの生産台数よりそのマシンが管理する虚空の揺り籠の台数が少ないからだ。
でも今はそんなこと関係無い、アクセス出来る虚空の揺り籠全部を開放するだけだ
「コンソール侵入完了自動攻撃ツール発動」補助AIが自動的に攻撃を仕掛ける
ローカルネットワークのみだから防壁はぬるいな。
程なくしてAIから「システムルートを掌握虚空の揺り籠シム環境を終了後ハウジングより強制射出します」と声が聴こえる。ツールで簡単に落とせてしまったのであった。
そもそもここまで入ってくる人間は内部の人間という前提の作りのシステムだったから
こんなすんなり行ったんだだろ。
先程の部屋の虚空の揺り籠が全部開く。
”虚空の揺り籠マウントフロア内に多数の覚醒生体力場を検出全員急行せよ”
アナウンスが流れる。
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「至急向かいます」先程ソラに生体力場をコピーされた研究員は
そう無線連絡を入れながら走った。
「嘘だろ……」
第一声がそれだった。
「意識はあるか」近くのIFD個体に話しかける。
しかし、虚空の揺り籠から正規の手順を踏まずに強制射出した影響は
IFDにも有った。自我を保てない個体が大半で有ったといえば分かるだろう
虚空の揺り籠内で栄養補給はされていたが空腹の自我を失った状態
つまり只のケダモノと化していた。
目の前の研究員に群がりカブリつくIFD被験体の数々
「室長IFD被験体が暴走してもう持ちません!武装兵を……」
その言葉を最後に息絶えた研究員。
それと同時にコピー元を失ったソラは生体力場を捕捉されてしまったのであった
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ドーム地下都市研究部門重役区画
「フロア担当全員をロストそれと同時にクインクアレス(アマネソラ)の生体力場を検出しました」
報告をする議員に対して
「そんなことはホロを見れば解る」と怒鳴る室長
円卓の会議室で一つ高い席に座る室長。
「人間離れした侵入者とは思ったが、まさか三年前の事件で失ったクインクか」
円卓内部で意見が交わされる
「これは完全に敵対組織に渡ったと見ていいな」
「前回はクインク一体だが今回は規模が違う」
「新型アトラスシリーズ全部だ」
「覚醒したアトラスシリーズ全個体を相手にしたら帝都も持たないだろう」
「フロアの焼却はどうかね……」
その意見に強く待ったを掛ける者が居た
「3年前の事件でフロア焼却は効果が無いのは証明されたとは思うが」
それに立ち上がる室長
「アトラスシリーズだけは絶対に渡してはならない」腹の底から響く声が会議室に反響する
「君たちのクラスでは判らないだろうがアレに動かれたらムンディ最大の危機だ」
「詳細は開示できないが超古代遺物の件だと言えば解るだろう」
「ドーム地表部を対消滅弾で焼却するそれが私の権限での限界だ!」ひときは大きい声を出す室長。
ざわつく議員
「待ってください室長!ドーム地上には研究資材と500万の命がありその生命が失われるんですよ
「能力覚醒しているIFDは1体しか確認出来ていない」
そこで一喝する室長
「人の話を聞け」
「低階級500万の命と帝国の運命」
「どっちが重いと思っているのか!」
少し間を開けて牙を出しながら室長は最後の言葉を発した。これは最終決定を意味する
「地上はすべてモルモットだろ」
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ソラの電脳にアラームが響く”生体力場複製元をロストしました。”
これで自分が居ることがバレたも同然
「ヤバッ気づかれる」
慌てて端末から有線ケーブルを抜くソラ。
間もなくしてアナウンスが流れる
"危機レベル5:対消滅弾によるガンマ線焼却を実施します。"
ドーム内すべての生物を殺すというアナウンス。
ヤバイ確実にやばい
バイクに大気圏再突入用フィールドをお願い。AIに命令する
ひとりでにマター対消滅エンジンが掛り宙に浮くバイク
そして周りの物を消滅させてフィールドを貼る。
宇宙線レベルのガンマ線や高速粒子ぐらいしか防げないフィールドなので
ガンマ線影響はもろに受けるが機械であるバイクには大きな影響無い
熱と爆風を防げればそれで良いのである。
ただしソラはそうゆうわけには行かない。
高強度のガンマ線を受ければDNAを破壊されて被爆して死ぬ。
「無限の方向操作防壁」
方向操作であらゆる粒子を捻じ曲げて身を守る大技
全神経を尖らせて妄想する自分の周りを纏う球状のオーラを
それに方向転換のイメージを乗っける。
情報子触媒が作用して現実の固定情報子を捻じ曲げる。
能力の発動である。
すべてのベクトルを変えることで闇に包まれる視界。
能力の発動には成功した。
オーラに凄まじい圧力が掛かるのを感じた
大気圏に生身で突入出来るレベルの防壁でもやはり
対消滅弾頭は辛い妹の死を思い出す。悔しさがこみ上げてくる
感情に強く情報子触媒は反応する。半ば半泣きになりながら
防壁を展開する。
「ゼェーハァー」対消滅弾の爆風はやがて止んだ。
建物の外郭は吹き飛ばされ自分の立っている周辺の床と骨組みが残っている
ソコからはっきり外が見えた、至る所にクレーターが出来たドーム内部の街
ドームを覆う外壁も一部吹き飛んでいる。
そんなまるまる爆破するなんて……
能力の全力使用でよろける。アシに力が入らない。
しかし、このままではダメだ。私がしっかりしないと……
まて、被験体は無事か?能力を発動できないと無事ではすまないだろう。
まずは被験体探しからだ……しまった、虚空の揺り籠の全部の場所をクラックし忘れた。
ソーシャル生体力ばスキャナーはどうだ?駄目だ。この爆発で死んでる
使えるわけがないか・・・
フロアを虱潰しに探すしか無いか
とりあえずさっき通ったフロアから確認だ
フロアは半分以上吹き飛んでいる
ソコには被爆して黒焦げになった死体の山が有った
放射線量も高い完全にアウトだ
このフロアは損傷がひどいから生き残った被験体は別のフロアか
エレベーターの前に行くもののエレベータは当然のごとく
使えなかった。
これは一旦バイクを取りに行ったほうがいいな。
いろいろと探してみるがマウントフロアも生き残りも見つからない
そんな時にムンディ帝国軍の外骨格部隊の偵察機が目に入った。
無線信号も発信している
ここから侵入して軍の偵察情報を傍受すれば!
AIお願い!
"音声通信の傍受のセットアップが完了しました"
「少佐 こちら識別コード1058 ターゲットらしき人物を発見しましたオーバー」
よし、情報が入ってきたターゲットの座標逆算……ん?
最初のフロアの上の階?
そんなところにマウントフロアなんて有ったっけ?
まてよあの被害具合で生き残り?嘘だろ!
そして、帝国軍外骨格部隊に拘束されている亮を発見するソラだった。
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「妹が助からなかったんです」
「すべてが遅すぎたんです」
アクセル大佐は頷きながら応える
「そうか間に合わなかったか」
「しかし今回の件は俺でなんとも出来ない
亮と君の居場所がバレればラティアごと消し炭にされかねない」
「連中の目当てのアーティファクトが有るから攻撃してこないと祈るしか無いな」
「お前たちを連れてこのままラティアに帰還するのは難しい。」
「一旦帝国制空権外れの無人星で待ってもらう」
「数日中に奴らの出方を伺いつつ対応を決めて迎えに行く様になるだろう」
M7752のマップを出しながら大佐は説明をした。
「この宙域も危ないフォールドゲートも使わない方がいい
自前のフォールドブースターで飛ぶしか無い」
「ソラブリッジに戻るぞ」
走ってブリッジに戻るソラとアクセル大佐
アクセル大佐はそのままマイクを手にとって全艦放送を架けた
「全艦連絡いまから緊急発進後フォールドブースターで離脱する」
「持ち場に戻れ!」
「機関室セントボルグ!フォールドブースターを使うぞ問題ないか?」
「あいさ艦長こんな事もあろうかと停泊中にフォルドブースターは調整済みですよ」
「フォールド強制再突入何度てもこいってもんだ」
「よし!」
「エリックフォールドオービスに捕まらない経路を用意しろ」
「フォールドオービスの対策は完璧です。
何度か強制デフォールドとフォールドを繰り返す航路を取るので荒い航海になりますが」
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ムンディ帝国本星中央議会
皇帝の声が響く
「緊急招集した理由は判っておろうな」
「今朝方の生体牧場襲撃の件だ」
「調べはついておろうな?」
報告の声が上がる
「3年前のクインク(天音宇宙)が単騎潜入していた模様です。」
「月の裏に識別コードを偽装した不審船が一隻停泊していた事がわかりました」
皇帝はニヤ付きながら口を開く
「フィルドゲートNシステムやオービスの情報は洗ったか?」
国交省大臣がバツ悪そうに応える
「それがさっぱりでして」
皇帝が怒鳴る
「何?」
「ポンコツ船と認識しておりましたが」
大画面スクリーンに画像が映る。
「どうやらフォールドエンジンを積んでるようで
独自にフォールドゲートを開いたと思われます」
キレる皇帝
「つまり何も判っていないと同然ではないか!
軌道警備隊は何をやっとる。IFDを出しても良い
不穏分子ごと叩き潰せ」
「「「エッサーユアハイネス」」」」