5節 憤怒と世界
僕の疑問・不平不満は憤怒となって噴出した。
「ココは何処!お前は何者!?人狼??」
ポニーテールの彼はイキナリの逆上に驚いたのだろうか。予想外の行動に声を荒らげたのだろうか?僕に投げたのと同じ飲み物を飲みながら「なぜ避けたし、飲み物を粗末にするなよ」と的を射ていない言葉を返す。
しかし、同時に言葉が普通に通じたことに驚いた。先ほどの象形文字にしろ、兵士同士の会話も理解できた。しかし、何処かに靄が掛った様な感覚だった。現実味が無い為か、否言葉を理解できるだけで素直に入ってくる感じが無かった。まるで吹き替え映画やトーキー映画を見ているような気分だった。しかし、彼の話す言葉は今まで喋っていた日本語の日常会話の様に身に染みて馴染む。「ハッ話せてる……だと!?待て何が何だか分からない」正直この感覚を咄嗟に説明出来なかった。それが、動揺となって現れた。
彼は困った様に眉間に人差し指を当て強く言葉を放つ
「とりあえず素数を数えて落ち着きなさい。」
「貴方は今朝何をしていたの?」
彼に諭され、今日の記憶を辿りつぶやく。
「今日は……残念なことに朝からコッテリと大学の講義が入っていたから……」
つい数時間前の事を思い出すのが、遥か昔の出来事を思い出すように記憶を辿る事に苦労した。
「ダルいけど、朝電車に乗って大学に言って」なぜ怠かったのだろう。
記憶を遡る「昨日友達とモンハンフロンティアで装備品の為に狩りまくった。」
「疲れたから講義で居眠りして……」実際入っている講義は情報工学系の講義でアルゴリズムなどの勉強だった。自慢になるけど小学生の頃からプログラムを組んでいたし、ロボット工学については全国大会の上位ランク。正直今回の講義を聞き逃した所で対して痛くは無いレベルの講義で正直面白くなかった。ほぼ徹夜ゲームの疲れと退屈は意識を刈り取るのに十分だった。今思うと今朝方までゲームをしていたのにその疲労を感じない。不思議な感覚。「気がついたらココに……」これ以上記憶を辿るのが辛くなってきた。そして口を閉じた。
彼は爆撃で出来た廃墟を背に手を広げた。彼の方向に風がフッと流れ長い桃色の髪の毛が流れ顔がハッキリと見えた。一息置いて彼は語りだした。
「ココには、大学もなければ電車なんて存在しない。」
「他人に言っても『妄想乙www』って笑われるのが関の山」
彼は僕が暮らした平成の日常を知っている。
しかしそれを否定するように言い切った。
「現実を見なさい」
人間が至高であると言う平成の世の常識に突き動かしたのだろう、こんな悪夢の世界を現実と言った彼につい言い返してしまった。
「ハッ?」
「ココが現実だと?人狼が何を言う」
しかし、彼は怒ることも無く哀れみの視線を向ける。
「君もうちも人間だ」
「まさか……体の変化に気が付いていないとか?」
僕は恐る恐る自分の体に視線を下ろす。Tシャツ・Gパンと言う冴えない何時ものオタクルックが目に入る。当たり前の事そう思っていた。
「なんじゃこりゃ!」
目の前の彼の様な毛皮に覆われた身体が目に入った。
「体中毛だらけじゃんけ!俺も人狼!?」
自分は自分で人間。動物なんかじゃなくて人間である尊厳が音を立てて砕けた。クリーム色に茶色の斑。そして僕は裸だった。裸と気がついた途端咄嗟に尻尾で前を隠した。昔から生えていたように、何も意識しないで手を動かすかのように無意識に動いた。
「僕の体どうなってるんだ!」
よくある人狼ものみたいに月を見て体中に痛みが走り変身する。なんてのはなかった。
気がついたらこの体だった。まるで元からこの体だったような、そんな感じがするぐらい視覚的異常以外の違和感が無いのである。
彼があきれ果てたように俯いた。
「アンタ馬鹿?鈍感? 」
「今まで気がついてなかったの?」
そう言うと顔をあげて畳み掛ける。
「<<虚空の揺り籠>>ではB型・ノロマ・⑨・ドテチンとか散々言われたウチでも直ぐに気がついたし」言葉の端々を聞くと僕と同じ時代を経験してるとしか、イヤ、同じ時代にオタクとかサブカルにどっぷりと漬かっていた人間の言い方の様に聞こえる。ネットスラグ等から簡単に判断出来た。つまり彼も僕と同じで<平成の世>からこの異世界に来たということなのだろう。それを気付かせる為にワザっと言ったとも思えるほどだった。
つまり、彼は僕と同じ平成の世を生きてきて、何かのきっかけでこの異世界に飛ばされたということだろう。異世界に飛ばされるなんてファンタジーアニメじゃあるまいし……
「どうゆうこと?」
「頭が痛くなってきた……」
「なんでもいいから、地球には戻れないのか? 」
彼は、沈み込んだ重い声でつぶやく。
戻れないことを深く理解しているようで有った。
「それは無理 私達の地球は30億年前に……」
--ゴォォォオ
彼の話は止まった。遥か遠くにだが先ほど聞いたジェット機のようななんとも言えない音を聞いたからだ。
「もうすぐ<<ムンディー帝国>>の援軍が来てしまう
細かいことは、ウチラの次元航行船で話そう」
彼は、根掘り葉掘り聞かれると思ったのか話題を変えた。
「所で……こんな時になんだけど」
彼は一歩近づく
「ずっと丸見えなんだけどね」
彼に股間を見つめられた。しかも明らかに少しエロい目線で!
この目線を何度か感じた事がある。"ホモの目線"だ!虫酸が走る。
「何見ているんですか」
「僕はノンケですよ。」
「このホモ!!こっち来るな」
彼の表情に明らかな怒りをとらえた。
しかし、瞬間彼はそれを飲み込んだ。
「まぁ、ちょっと待って」
ガサゴゾと彼は例の百科事典ほどの端末を探る。
「あれ……たしか出した記憶が無いからあるはず」
漫画雑誌や色々な薄い本など色々な物を放り出しながら、
彼がつぶやいてた。
そして「有った! 」と溜息を付く。
「支給品の作業服だ!とりあえず着な」
包を投げそう言い放つ。
その後、彼は少しバツの悪そうな顔をしていた。
(「あくまで、諜報だからな戦闘は避けろ」と言った上官にコイツの事をどう説明するかと悩んでいるなんて亮は知る由もなかった)
僕はもらった一包開けた。
ベルトで服と靴を縛るようにしたものだった。
中にはどこと無くアイヌの様な民族感を漂わせるデザインのノースリブシャツとニッカポッカのようなズボンとベルトに重厚なすね当てが付いた金属製のブーツ。宇宙服のブーツにも見えるが、真空相手のシール構造などは見当たらない。どうやらこの世界の安全靴の様なものだろう。手ぬぐいにしては長い帯のような白い布が入っているが肌着が見当たらない。
「ホールド無線はリンク落ちてるけど、バレてるんだろうな……」後悔するようにつぶやく彼に僕は尋ねる「パンツがない!?この白い布はなんだ?」
彼はホッと我に返る様に僕に視線を戻し教えてくれた。少し恥ずかしそうだ。相変わらずのホモなんだろう。「それは、<<褌>>っていうんだよ、元日本人なら知ってなさいよそれぐらい」
「それどころじゃ無いんだけどな……」彼はそう呟きながら巻くのを手伝ってくれるようだ。褌なんて祭りで見るくらいで僕は巻いたことも無ければ巻き方もわからない。
「端加えて」「こうしてクイッっと」彼になされるがままに巻いてもらう、そして、
閉められた時だ「キャフン」つい声が漏れた。尻に食い込む感じがなんとも言えない、不思議でキモチ悪い。しかもどうやら、見た目から僕の知っている褌とは少し巻き方が違うようだ。尻尾を避けて安定させるために特殊な巻き方担ってるのだろう。
どうやら巻き終わった「これで良いでしょうか……」食い込む感じに成れず内股でもじもじとしながら僕は恥ずしいのを隠しながら呟いた。
ぼそっと「可愛くていいかも」とか彼は言っている。
異世界に飛ばされホモと二人っきりとかなんという不幸……僕はツイてない。
何か凄く大切な物を失った気がする。
「服の着方はわかるでしょ?さっさと来ちゃいなさい」そう彼は言うものの、靴の履き方が解らない。硬い素材の為普通に上から脚を入れて履くことが出来ない。「この靴どうやって履くんだ? 」もう試行錯誤するより聞くほうが早いそう僕は思った。「横のボタンを押して」と彼はこっちも見ず隙かさず返す。どうやら僕が何処で詰まるか予想ができてたようだ。内踝にあるボタンを押す。そうすると、チャックがあるであろうと所が自動的に開いた。そして脚の大きさよりも大きくなるようにサイズが伸びた。
足を入れてもう一度ボタンを押すと、自分の足のサイズに合わせて縮小したあと「パシュ」という音とともにロックされて密着した。レーサーのブーツみたいに密着して変な方向に脚が曲がらない様な作りになってる。作業靴というだけ有ってかなり安全性を考えた構造なんだろう。
これでひと通り服が着れた。そしてこの後どうするかを尋ねるように彼に視線を向けると、彼に質問をする前に彼は答えた。
「暗号キー交換とアプリをインストールするから、有線するよ」彼はそう言うと首筋からLANケーブルぐらいのケーブルをシュルシュルっと出した。ここだけ見ると炊飯器みたいで少し面白い。
そして彼はそのケーブルを僕の首筋に挿した。恐らく彼と同じく僕も首筋にI/Oを持っているのだろう。獣の身体に成った僕はそんなサイバーパンクなことぐらいではもう驚かなかった。
彼は何処か上の空で目線を激しく動かしている。どうやら、何かしらの操作をしているのだろう。操作をしながら彼は言う「私達の生体力場を元に追跡されるかもしれない」「戻ったら電脳ジェルブレイク手術だから」
視界に様々な情報が流れこん出来る。ウインドウのようなものも多数表示される。若干あっけにとられながらふと思う。ジェルブレイクって林檎社の携帯改造?
そんなことを考えていたが、目の前に表示される情報がどんどん増える。僕は目がチカチカして頭が痛くなり目をとじる。しかし、合成音声で情報が提供される。
「無線回線接続完了」「ボイスライン確保」「VRオーバーレイヤー共有開始」「ムンディ星系空間マップ IFD開発……」「天音さんとプライベートジオタグを共有しました」情報の渦にの飲まれて数分後やっと落ち着いた。
インストール作業とやらが完了したのだろう。目の前に余計なシステムダイアログ等は表示されなく成った。それと同時に彼は歩き出し彼はこちらに視線を向けついてくるように促した。
色々と気になることが有っても視線を向け疑問に思うとそこに名称や簡単な説明が表示されるように成った。恐らくアシストソフトが何種類かインストールされたのだろう。これである程度のものについては、なぜ?何?と三歳児のように彼に聞く必要は無くなった。
しかし、目の前に不思議なピンが立っている。本来なにもないところに重ねられたCGのピンで説明文も表示されない。彼に尋ねる「何も無いところにピンが表示されているけど何?」