3節 窮地に刺す光
「抵抗するな貴様は完全に包囲されている!」刑事ドラマで見かける、余りにもありふれたセリフ。しかし、ドラマティックなところは一切無い。それは、相手が刑事なら犯人を極力無傷で捉え司法機関に委ねるからである。ドラマならここで犯人が泣きじゃくるなり、情を誘いながら自供し手錠を掛けられるのであろう。
この場合、ドラマティックにならない原因は包囲している兵士たちにある。<洋物宇宙FPSゲーム>を彷彿とさせる装備を身に纏い、軽機関銃の様な明らかに対人兵器ではなさそうな代物を構える10数名の兵士。
さらに追い打ちを掛けるように完全に「組付されていて」亮は動けなかった。
「何するんだよ!」と咄嗟に怒声を張りあげた亮だが、動じる様子もなく、
兵士は話し出す。その話し方から、どうやら通信をしているのだろう。
「本部 ターゲットを確保 バイオスキャンデーターを転送する」その言葉とともに、兵士は亮の頭髪の襟足を上げて首筋を露出させる。瞬間、背筋にビクッ電気が走る感覚に亮は襲われる。
その後兵士のヘルメット内のヘッドフォンからだろうか声が聞こえた。そんな大音量でも無いはずのヘッドフォンから会話が聞こえる事に少し困惑したが、盗み聞いた会話の内容が衝撃的でそれどころでは無かった。
「バイオドームを1つ消し飛ばしても無傷とは驚いた。間違いないIFD被験体A09だ。 <<虚空の揺り籠>>の呪縛から開放されたIFDは、もはや、兵器でも無い。ただの脅威だ処分しろ」淡々としているが、驚きを隠せないような声色で話す、その声に恐怖した。
「いま処分って言ったよな! どうゆうことだってばよ!」ここまで、明確にしかも恐怖の意を含めた殺意を向けられたことは無かった。中学の頃虐められ冗談半分の殺意を目にしたことはある。それでも精々ナイフで脅して金品を巻き上げるチンピラ風情だ、刺した所で殺す気はないだろう。そして恐怖とここで一生を終えるという絶望で電撃が走り、走馬灯が見え始めるか否かの時であった。
突如「ウリィィィィ!」と轟音が響く
電気モーターなのか、レシプロ(ガソリン)エンジンなのかも分からない、聞いた事のないエンジン音とタイヤの擦れる音とともに、前輪を上げウイリー状態の単車が現れた。ビックスクーターなのかSSなのか分からない躯体だったが、2輪であることは間違い無い。同時にもう一つの事がわかる。このままでは確実に轢かれる。
と思ったが、そのバイクの前輪は着地し、前輪を軸に後輪をスライドさせた。
「シュサァァァァァ!」まるで何処ぞの金田少年がライドしていそうな動きだった。
しかし、瞬間覗かせたのは桜色の明るい長髪だった。
避けてくれる。そう期待し、少し気が緩んだ瞬間だった「ドォォォン!!」
衝撃とともに時間の流れがスローになる。のけぞり1回転して腰から壁にぶつかる。
そして、その壁は「バァァァン!!」という音共に砕け散る。
壁を砕いてもまだ落ちないスピード……もうダメかと思った、その時に、脳内に音声が流れた「危機と判定 オートCQC実行」。
「シュゥゥゥゥーッ」体が勝手に動いて、忍者の様な受け身を取った。亮自身、何が起きたのかわからなかった。格闘技も習ってない自分がCGさながらの動きをしたのである。
破壊した壁から舞い上がるホコリが一体を包む。何が起きたのか理解できず「ハッ」っと我に返る。いくらカッコよく着地しても、痛いことには変わりない。「イテテテ」と呟きながら立ち上がるや否や直ぐに「なんだよ、イキナリ!」と怒声にする。理解できない状況、痛み、それは怒りに成った。
先ほど包囲された場所から10mは飛ばされただろうか、兵士達から距離が出来ている。
砂埃が晴れる前から「貴様は何者だ!」と兵士の怒声が飛ぶ。
これだけ離れたにしろ、やはり通信の音は聞こえる「構わん作戦の邪魔者は排除しろ」そのように聞こえた。
そして砂埃が晴れると、搭乗者の姿が現れる。