1節 現実と言う名の夢が覚め今日が始まる。
第1章 覚醒
-1節 現実と言う名の夢が覚め今日が始まる。
高分子ポリマー(プラスティック)が焼ける匂いが鼻を突き、嘉手納 亮は目を開けた。
何十時間も寝た後の体にフヤケた様な感覚が襲うが、それを気にする余裕なんて・・・・・・いや、それどころか自分の身体の安全を確認するという、簡単な事すら出来なかった。
なぜなら、それは網膜に結像した画像、嗅覚神経の全てが、<異常状態である>と言う信号を脳に絶えず送り続けていたからであろう。それは、痛みとなり、恐怖となり体を硬直させるには十分であった。
僕の居る建物は天井が半分以上吹き飛び、空が見える状況になっていた。
ただ、それが本当の空かはからなかった。なぜなら、ところどころ割れているもののの、高い部分は上空数キロメートルに及ぶ様な大きなガラスドームの中だからだ。更に、物理的強度から考えて、現代の建築技術では到底成し得ない形状の建物の数々が焼け爛れ眼下に広がる。
たちの乗る煙からこの爆撃が数時間以内の出来事だと容易に想像できる。
「これは、悪い夢だ・・・・・・そうに違いない。」
どれだけの時間が流れたのだろう、物の数秒の出来事のようにも鉛のように重い時間の中を数十時間経過したような気がした。
風向きが変わり、背後の足元から強烈な死臭がした。それは、腐敗臭・薬品臭と、髪の毛を焼いたようなタンパク質が焼け焦げる嫌な匂いが合わさった様であった。
思わず振り返る。
床が抜け下の階が丸見えだった。
そこには"異常な死体の山"があった。何が異常か?というと全てとしか答えようが無い。一見焼死体とも思えるが、なかには腐敗したものも有った。数時間以内の爆撃でこのように焼死体が腐ることはあり得ない。もっと前にこの死体の山は出来たのであろう。
さらに、それは人間といえば人間であるが、毛皮に身を包み、尻尾を生やした混合獣のようなもの・・・・・・いや、狼人間と猫人間の様で有った。
その室内の全容は焼け落ちていて確認は出来ないが、見方によれば研究室のようにも見える。散らばったピースを集めるように、現状から推察すれば<ひとつの仮説>にたどり着く事ができるようにも思えた。しかしそれは、工学の禁忌に触れ人間の尊厳を愚弄するような予感がしたのだろう。酷い生理的嫌悪でそれ以上の思考は停止し現状を見るがままに受け取った。
見知らぬ生物とはいえ、狂気の深淵を具現化したような死体の山と、名状しがたき異臭が胃の内容物を押し戻すのはたやすいことだった。全身の力が抜けその場に倒れこんだ。何も食べてなかったのだろう、苦く喉を焼く胃液を吐き散らかした。それと同時に涙が視界をにじませた。
その時、空気を揺らす連続燃焼型内燃機関のような音が聴覚を刺激する。しかしそんな事を気に留める余裕は無かった。