表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔術学園世界記童話

銀色の剣と白銀ドレス、そして新しい時代へ。

作者: RYUITI
掲載日:2014/07/15


 大きな扉がギイっと音を出して開いた。

その扉の先に在ったのは、

大きすぎるほどの室内に可愛らしいと思える内装、

白と柔らかい赤を基調としていてとても明るく陽の光が映えている。


そんな室内に小さく、規則的な靴の音が響く。


靴が床に着くたびにコツコツと音を響かせ、

着ている白いドレスがこれまた小さく揺れをみせた。


向かっている先はとても安眠できそうなふかふかしたベッドだろうか。

ベッドの前に辿り着いた誰かは、

静かにベッドに倒れこんでため息を漏らした。

「ゼクア兄さんが当主権をネイジュ兄さんに譲るなんて」

そう呟いた誰かの顔色は浮かない。


突っ伏せていた顔をベットから上げた誰かはベッドの少し横にある中くらいの机の上にある額縁を見た。

其処には【魔術学科卒業者アリス・ノワール】と書かれていた。


その横には家族で写っている一枚の写真がある。

其処に写っている小さな女の子は先ほどまでベッドに伏せていた誰かにそっくりな顔をしていた。

十貴族の中の一つに属するアリス家の長女で末っ子のアリス・ノワール。


この大きな部屋の持ち主こそアリス・ノワール本人だ。

兄達と厳しくも優しい両親によって育った彼女はとても賢明に育った。

そんな彼女に最近悩みが幾つかあるようで、

その悩みは彼女をとても不機嫌にさせている原因でもある。


アリス家長男、アリス・ゼクア。

七代目の当主になるべきその兄が、

継承権を譲るどころか、他貴族に婿として入ると言って彼女を悩ませているのだ。


何度ため息をついただろうか。

そんな事を考える事も無く、

気付けばベッドに顔を沈ませたまま眠っていた。


ノワールが起きたのは、

日が沈む夕食時で、

ゼクアがノワールを食事会へと誘いに、

彼女の部屋を訪れた事がきっかけだった。


扉を開けた時のゼクアの焦る表情と、

熟睡していて唾液が寝具についていたノワールが恥ずかしそうにしているのはとても――

「おいで、グロリオ」



嗚呼、呼ばれてしまった。

せっかく面白く見物していたというのにな、

仕方が無いので高みの見物をやめて、

呼んだ彼女の肩に乗るとしよう。


俺は大きな羽をゆっくりと広げて彼女の肩へと足を降ろす。


盟約によってアリス家に贈られた俺は、

不老不死のカラスだ。



コツコツとノワールの足が進むたび、

俺はゆらゆらとそしてぐわんぐわんと揺れている。

このなんとも言えない感じ、

――とても気持ちが悪いぜ。


それからしばらくして、

目的地の扉の前についたのか、

ノワールはピタリと足を止めて優しくトントンと扉を叩く。


扉の中からコツコツという靴の音と、

少し速い息遣いが聞こえる。

…………ガチャリ。

少し開いた扉を、ノワールがさらに大きく開いた。


その瞬間、

ノワールの身体がぎゅうっと誰かに抱きしめられた。

「な、な、何を――」

ノワールは驚きのあまり言葉が続かないようで、

人馴れしていない彼女に俺はカーと棒読みで鳴いておいた。

もちろん、哀れみと呆れを込めて。


長い抱擁が続いていたが、

ノワールを抱きしめていた人物は、

急にこちらに眼を向けて、

「グロリオ、久しぶりだね」と笑顔で言ってくる。

嗚呼、やっぱり彼女は変わっていないんだなと思えて、嬉しくなった。


笑顔を向けてきた女性の名前は、

アグウェイン家六代目当主の長女であって、

名前をリュミエールという。

俺が最初に仕えていた家の人間だ。

赤ん坊の頃から知っている。

もちろん、ノワールのことも赤ん坊の頃から知っているんだけどな。


ひとしきり抱きしめて満足したのか、リュミエールは万遍の笑みで、

ノワールと俺を扉の中へと招き入れた。

部屋の中に入って直ぐ、ノワールはムッとした様子で、

「もう、いきなりなんですか!!」と

リュミエールに向かって言っていたが、

言われた本人は聴こえていないかのように、

笑顔で隣の席に座るように、手振りをしてノワールを見て笑顔を見せていた。


しぶしぶとリュミエールの隣の席に着いたノワールは、

集まっている面子に気付いて、

しばらくは下を向いていた。

どうやら、この食事会、

アリス家とアグウェイン家以外にも十貴族の内から参加者が出ているらしい。

と言っても、見渡す限りどいつもこいつも時期当主候補が大半だ。


俺がキョロキョロと眼を動かしていると、

中央の席に座っているゼクアが席から立ち上がって礼をした後、静かに話し始めた。

「皆様、今日はお集まり頂きまして誠に感謝致します。

今日、ココに皆様をお招きしたのは、

アリス家並びにアグウェイン家の第七代目当主決定の報告と、

以後における貴族間の親睦を深めるための食事会です。

皆様、どうぞ肩の力を抜いて楽しんで行って頂きたい。」

そう言い終わったゼクアは二度目の礼をした後、

少しだけ肩の力が抜けて安堵の表情を浮かべていた。


どうやら今から少しだけフリータイムのようだ。

まあこういう形式のものには準備が必要だしな。


そう言えば、ノワールの兄、ネイジュは何処にいるのか。


いつも穏やかで其れで居て平凡な悪く言えば影の薄い奴だから直ぐに見つかる筈だが……


あ、ゼクアの右隣に顔を蒼くして誰がどう見ても緊張している男が居るが、

まさか、アレ、ネイジュなのか?

普段よりも随分と濃く見えるぞククク。

――――なんて思っていたら急激に身体が重くなった。

魔法か?魔術か?錬金術か?ええいなんでもいい!

俺を重くしてるのは誰だッ!と思ってキョロキョロと探していると、

ノワールがこっちを薄く睨んでいた。

あ……はいごめんなさい。


どうやらネイジュをバカにして居たのが顔に出ていた様だ。

その証拠に、俺が謝ると重くなっていた身体が元の感覚に戻っていた。


ガタッと大きな音がする。


音のした方へ眼を向けると、

何かを決意したネイジュが立ち上がっていた。


辺りはしんと静まり返っている。


ネイジュは自らのテーブルにおいてある水を少しだけ飲むとこう切り出した。

「皆さんにここで一つ報告をさせて頂きます。

今回のアリス家一同や他貴族との話し合いの結果、

時期当主権を持っていた長男アリス・ゼクアからの推薦と、貴族審議による能力的考慮により、

アリス家次男の私、アリス・ネイジュが第七代目当主として座に就く事になりました。

右も左も分からない若輩者ではございますが、皆さんどうぞ宜しくお願いいたします」


そう言い終わったネイジュの顔は以前よりずっと当主らしい顔をしていた。


さて次は、いよいよどうなるか。

他の貴族も気付いているんだろう、

とてもざわついている。


だがざわめきが止む前に、

アグウェイン・リュミエールは立ち上がり頭を下げる。

頭を上げた彼女は流石という程に気品と強い意志に溢れていた。

そんな彼女が口にした言葉は短いものだった。

「私、アグウェイン・リュミエールは亡き兄に代わり、

アグウェイン家七代目当主の座に就きます事を、

此処に宣言させていただきます。

そしてその補佐として――」

ゼクアが立ち上がってリュミエールに寄り添いこちらを向いて語る。

「私、アリス・ゼクアがアグウェイン第七代目当主の補佐、並びに、

リュミエールの夫としてアグウェイン家へ入る事を此処に宣言致します。」


しんと静まり返っていた室内の時間が進んだように、

その言葉を聞いた貴族の誰かが、

「な、何をバカな事を言っているんだ!

伝統ある十貴族の最有力当主候補が、

女の当主の補佐をするだと!?笑わせるな!!!」

とゼクアとリュミエールに罵声を浴びせて来た。


イライラする。

俺はノワールに対して、あの無礼な貴族に飛び掛ってもいいかと視線を送る。


けれど、その前にその貴族は何故だかうめき声を上げていた。

ざわざわとする室内、

誰もが一点を見つめていた。


この濃く深い匂いは、魔法か。


ガシャリと金属がぶつかり合い揺れる音がする。

この雰囲気は――――アレか。


ざわざわとした雰囲気が雨がピタリと止んだように静かになった。

何故なら其処に王家当主の姿が在ったからだ。

黄金の装飾に身を包む王家の当主は、

うめき声を上げている貴族に対して声をかけた。

「めでたい席を汚すなよメディパスティーナの若造が。

才あるものが当主に就き、能あるものが補佐をする。

これの何処が笑い事になるのか、しっかりと意見を述べて見ろ」と。


その言葉を聞いて顔面が先ほどのネイジュよりも、

蒼白しているメディパスティーナ家の男は、

逃げるように室内を後にした。


その姿を見ていた王家当主は、

ゼクアとリュミエールに顔を向けて、

「申し訳ないお二人とも、

空気が悪くなってしまったな。

私に出来る事は何も無いが、

君達に幸があらんことを祈っている」

そう言って王家の当主もまた静かに室内から消えていった。


吹き荒れる風が静まったかのような室内に、

ノワールを呼ぶ声が聞こえた。

呼んでいるのは笑顔のゼクアだ。


ノワールの表情は固く、

何があるのかという不安の表情をしている。


コツン、コツンと一歩一歩小さく、

ゼクアが待つ中心の席へと近づいて行く。


ゼクアの元に辿り着いたノワールは顔をあげて問う。

「ゼクア兄さん。

いったい何を――」

その表情はいつまでも不安そうだ。


ふとノワールの横を見ると、

同じような表情をしたネイジュの姿が其処にはあった。


ゴクリッ。


ノワールとネイジュは二人一緒に喉を鳴らす。

そんな二人を見たゼクアは少しだけ困惑した顔を見せたが、


ネイジュには中くらいの乳白石で作られた箱と大きめのワタの木で作られた箱を渡し、

ノワールには黄い鉄鉱石で作られた中くらいの箱と、

銀水晶で出来た大きめの箱をそれぞれ渡した。


ゼクアに開けてごらんと言われた二人は、

どういう意図があるのか解らなかったようだが、

おずおずと箱を開いて行く。


ネイジュの二つの箱の中には、

ゼクアが記していた大きな魔術書物と独特な匂いのする魔術式の織り込まれたマントが入っていた。


箱を開いても尚、ネイジュの顔は呆気に取られているので、

それを見たゼクアがネイジュに耳元で、

「今日からアリス家はお前が守るんだ。

何にも囚われる必要は無いよ。

お前のままでお前らしくアリス家を頼むぞ」

と、こう言ったのでネイジュは涙ぐんで力強く頷いた。


ノワールの二つの箱の中には、

銀色に輝く変わった形の剣と白銀のドレスが入っていた。

どちらも美しいモノだったが、ゼクアの意図がわからないノワールは困惑していた。

そこにネイジュの時と同じくノワールの耳元でゼクアが、

「今日まで良く、補佐をしてくれたね。

苦労や苦悩が耐えなかったと思うがありがとう。

此れからはお前の持つ強運と人を惹き付けるその魅力、

自らのために自らの思う道のままに使うんだよ。

この剣はお前の道を切り開く物で、このドレスは俺やネイジュと同様にお前を守る物なのだから」

と、言うのでノワールもまた力強く、ゼクアの言葉に頷いた。



こうして、アリス家とアグウェイン家の新しい時代が始まりを告げた。


俺は唯、ノワールの肩に乗ってその先を進むだけだが、

何処までも着いて行こうと思う。


友との盟約と新しい時代を歩む、

彼らの想いのために。


先は暗く険しいかもしれない。

それでも、彼らは暖かい光と強い意志に満ちている。


【おしまい】





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ