真くんと美琴さん
私の恋人である、真くんは、可愛い。
ぷにっとした肌、ちまっとした背、くりっとした眼、長いまつげ。細く引き締まった身体に童顔。
そう、俗に言う男の娘ってやつなのである。
「どうして、俺をそんなキラキラした目で見てるんだ。美琴。」
思わず見つめてしまっていたらしい。
男にしては高めの声だというのもあって、普通の服を着てるとどっちかわからない。
この前一緒に映画館行ったときは、レディース料金二人分だった。
真琴くんは「またか」って顔をしていたけど、否定しない辺りいい性格をしてると思う。
「で、だ。何を期待してるんだ。」
おっと、考えこんでしまってたっぽい。失敗失敗。
お願いはただ一つ。準備は万端。用意は上々。あとは頼むだけである
「ちょっとお化粧してみない? 真くん。」
……目頭押さえて、「やはりかちくしょう」なんて呟かなくてもいいじゃないの。
「なあ、美琴。俺はな。男なんだ。こんな容姿だけど、男なんだ。そりゃ、それを上手く使って生きてきたさ。幼い頃は女物の服を着せられたこともあったさ。嗜好も女性っぽい。それは認める。……だからってこれはあんまりじゃないか?」
いえいえ、似合ってますよ。真くん。私の見立ては間違ってなかった。
すね毛がないのは、一緒にお風呂はいったときに確認済み。抜かりはない。
スカートは似合いそうなふんわりカラーのシンプルなもの。上着はゆったりとしていながらも可愛さを感じさせるものをチョイス。
後は薄く化粧するだけで可愛い女の子の完成。いい仕事でした。
「いいじゃない。可愛いんだから。可愛いは正義よ?」
……頭かかえなくてもいいじゃないの。俺って俺ってそんなに嘆かなくても似合ってるわよ?
「誰のせいだ。誰の!」
そんな顔でにらんでも、可愛いだけだから諦めなさい。
「なあ、美琴。どうして俺はここにいるんだ。」
どうしてって、デートでしょう?
「それはわかってる。どうして俺はこの格好のままなんだ。」
一度可愛い姿の真くんとデートしてみたかったの。せっかく、男の娘が彼氏なんだし。
「ああ、そうだな。お前って、そういうやつだよな。わかってたさ。それに付き合うのは惚れた弱みだってことも。いつかこんな日がくることも。初めて女装させられた当日、そのまま連れまわされるとは思ってなかったがな!」
器用ねえ、小声で怒鳴るなんて。
「俺、何でこんな奴に惚れたんだろう……」
軟派されてるところを私が助けたからじゃなかったっけ?
ちょっと金的蹴ったくらいで逃げるなんて、思わなかったけど。がたいの割には弱くて、あっけなかったわね。
「……俺も男だってこと忘れてないか? 美琴。」
忘れてないわよ。失礼ね。大事な恋人の性別忘れるわけないじゃない。
後、ため息付くと幸せ逃げるわよ。
「美琴、俺はどっちに入ればいい?」
「どっちでもいいわよ。私は」
「元はと言えば、お前のせいだろ!?真面目に考えてくれ!」
自棄飲みの結果、お手洗いが近くなったらしい真くんと今お手洗い前で問答している。
今の格好のまま、男トイレに入るわけにも行かず、かといって女トイレに入るのも気がとがめるらしい。
私は、いっしょに女トイレに入ればいいと思っているが、口には出さない。
少しずつ内股になって、目尻に涙が浮かび始め、顔が赤らんでいく真くんが可愛すぎるからだ。
これは、反則。殺人的可愛さ。愛があふれそうになるけど、気合で耐える。出してしまうのはもったいない。
「な…なぁ。真面目に考えてくれょぅ。」
真くんが、ぷるぷる震え始めてしまった。もじもじし始めてる。
強烈に可愛いので、このまま見ていたい気もするが潮時かな。
「いっしょにいきましょ?」
手を引いていくと、素直についてくる。うつむいてる姿もまたいい。
私の恋人はこんなに可愛いのだと表情に出さずにかみ締める。
今日はこれだけ困らせてしまったんだ。今度甘やかしましょう。
普段不機嫌気味な顔がふにゃっとするのを見るのも、幸せなんだから。
ためいきつきながらも、私のわがままに付き合ってくれる君が好きだよ。真くん。
君は覚えてないだろうけれども、私は一度君に助けられてるんだ。
次に君を見つけたとき、変わってない君に驚いて、囲んでる男達に怒りを覚えた。
見た目は可愛いのに、男前な君が、大好きだよ。
普段、恥ずかしいからいえないけどね。