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似合わないと言われたふわふわドレスを婚約者に贈られ、もう一度着たら「可愛い」と独り占めされました。

作者: 有梨束
掲載日:2026/04/19

ふわふわのフリルとリボンたっぷりのパステルカラーのドレスを目で追いながら、たいして飲みたくもないグラスに口をつける。


パニエは何枚重ねているのかしら。

プリンセスライン、可愛らしいわ。

ピンク、コーラル、ラベンダー、どれも甘くてロマンティックで、絵本の中のお姫様だ。


羨ましい…、私も着てみたかった。


私の戦闘服ドレスは、どれもマーメイドラインかスレンダーラインのシュッとした印象の凜としたものだけ。


色もパステルカラーなんて程遠い、赤や黒、よくて緑。


つりあがったキツめの目、よく通った鼻筋、女性にしては高い背、肉のつきにくい骨ばった体つき、実年齢より上に見られやすい顔、すべてがふわふわから遠い。


特に赤い髪がキツい印象を増している。


ピンクが、ふわふわが、フリルが、リボンが、似合わない。


だから、私には夢のドレスだ。


いつからか夜会では、人のドレスを目で見て楽しむようになった。


せめてもの慰めのようなもの。


私には一生着られない可愛いドレス。


「リーゼロッテ、どうかした?」

婚約者のジフに声をかけられて、何もなかったかのように目線を戻す。


「ううん、何もないのよ」

私の笑みは、美しく艶やかであり、ふわふわ可愛いではない。


自分のドレスは見たくないから、背筋も伸びるし、顔も上がる。


「リーゼロッテは、いつも綺麗だよね」

ジフはいつもそう褒めてくれる。


「ありがとう」

綺麗が嬉しくないなんて、贅沢な悩みだ。




ふわふわフリルのドレスを着たことがないわけではない。

子どもの頃は、むしろ好んで着ていた。

それに包まれているだけで、頑張れる気がしたのだ。


7歳の時、たくさんの子どもの集まる誰かの誕生日パーティーで、ピンク色のフリルたっぷりのドレスを着て行った。

いちばんのお気に入りだった。

その場にいた一番身分の高い家の男の子に指をさされて言われたのが、今でも忘れられないのだ。


「似合わないくせに、そんなフリフリのドレスなんか着てるのかよ。ブスだな」


家に帰って泣いた。

次の日から、フリルもリボンもピンクも怖くなった。

お母様にお願いして、私に似合うものを選び直してもらった。


自分で選びそうになるのは、ずっと大好きで憧れてきた可愛いものばかりだったから。


あれ以来、『可愛い』は封印した。


今では、自分の似合うものもわかる。

たしかに、凜としたものの方が似合う。

似合うものと好きなものが同じ人が羨ましいし、可愛いが似合う人は余計に憧れが増していく。


その度に、虚しさが積もっていく。


たかがドレスでこんなに悩ましいなんて、きっとくだらない。




「ジフから贈り物が届いたの?」

「はい、大きな箱ですよ」


ジフからの贈り物はよくあるけれど、何もない日には珍しい気がする。


『明日の我が家でのお茶会に着てきてくれると嬉しい。ジフ』

メッセージカードにはそう書いてあった。


ドレスかしらと開けてみると、レースとリボンとフリルたっぷりの可愛らしすぎるプリンセスラインのドレスだった。


なんで…。


「まあ、素敵なドレスですね!」

「お嬢様がふわふわのドレスだなんて、子どもの頃以来ですね!」

侍女たちは嬉しそうにしているが、私は顔を引き攣らせて後ずさった。


どうして、今までこんなドレス贈られたことないのに…!


ジフの好みが変わった?

贈る相手を間違えたとか、ううん、違う、そうじゃなくて。

ジフがそんなことするわけがないし。

動揺が止まらなくて、冷や汗が止まらなくて、心臓がバクバク言っている。


こんなの、無理よっ!


どうしたらいいの…。

ジフ、明日って、書いてあった。


怖くて、たまらなかった。


私は箱の蓋を閉めて、部屋に駆け込んだ。


『明日のお茶会に行けなくなってしまいました。ごめんなさい。今度、埋め合わせをさせて。リーゼロッテ』

急いでそれだけ書くと、ジフの家にこの手紙を届けるように使用人に頼んだ。


…着ない、私はもうフリルは着ないの!

似合わないと笑われるのは、もう嫌なの!

ジフに、がっかりされたくないの…。


お願い、何もなかったことになって…。



だけど、翌日ジフの来訪があった。


「えっ、ジフが来ているの!?」

慌てて応接間に行った私の服装は、濃紺のスレンダーラインで首元がしっかり開いている大胆にも見えるドレスだった。


「ジフ…、あの」

「何かあったのかと心配したんだけど、風邪ではなさそう?」

「ごめんなさい、私」

「ううん、僕こそ急にごめんね。顔が見たくて。でも、贈ったドレスは着てないんだね」

ジフの何気ない一言に、ドクンと脈が強く打たれた。


…ジフは、せっかく贈ってくれただけなのに。


「いつもと違うから、戸惑ってしまって」

「でも、リーゼロッテの好きなドレスだよね?」

「え?」

「いつも他の方の優しげなタイプのドレスを見ているから、好きなんでしょう?」

ジフは笑いながら、私の頬を撫でた。


その頬にじわあっと熱が集まってくるのがわかる。


い、いつも見ているの、バレバレだった…。


「でも着ようとしないみたいだし。僕と2人きりのお茶会ならどうかなと思って、贈ったんだけど」


ああ、ジフの気遣いだったのね…。


でも、あんな可愛いの──。


「…私には、似合わないし」

ぽつりと呟くと、ジフは私の両手を握って持ち上げた。

つられて目線も上がって、ジフと目が合う。


「そんなことないよ。僕がリーゼロッテに合うと思ったものを選んだから」

「……」

「大丈夫だよ。僕の見立てはいつも合っているでしょう?」

そこまで強く言われると、それには頷かざるを得ない。

ジフが今まで贈ってくれたドレスで、似合わなかったものはない。


この呪いはジフに会う前のものだから、ジフは知らないはずなのに、いつから気づいていてくれたんだろう──。


「リーゼロッテ、今着ておいでよ」

「…えっ」

「それで僕にだけ見せて。ね?」

いつもと変わらない笑みで、ジフは優しく言った。


「時間がかかってしまうし…」

「いくらでも待つよ」

「…あんな可愛いの、普段着ないし」

「いつもと違うリーゼロッテも見たいなあ」

いつも通り優しいのに、ジフは引くつもりはないらしい。


ニコニコ笑顔で、私の返事を待っている。

後ろで侍女たちもスタンバイしている気がする。


もう一度の、あの絵本の中のお姫様のようなドレスを着るのには、勇気がいる。


震える指先はジフに握られて、そこから勇気が注がれているみたいだった。


「に、似合わなくても、笑わないでね…?」

「絶対可愛いだけだから、大丈夫」

ジフはにっこり笑うと、私の手を侍女に預けたのだった。



「…………………ジフ、やっぱり着替えてきていい?」

「だめ、隠れてないで見せて?」

扉の前でもだもだしていると、すぐそばで声がした。

応接間の扉一枚向こうにもういるらしい。


着れたはいいけど、見せるのは…。


「大丈夫だよ」

ドアの隙間から手が差し出されて、姿が見えていないのに、少しだけホッとする。


観念してその手を握った。


ジフは私の姿を見るなり、目を見開いた。


──ドクンと耳元で脈の音がした。


ど、どうしよう、やっぱり似合ってないって言われちゃう…!


また、否定されたら、さすがに。


「わあ、なんだやっぱり似合っているじゃないか!」

明るいジフの声と嬉しそうな表情に、私は腰が抜けそうになる。


その言葉に、早くも泣きそうだった。


「どうして、似合わないなんて思っていたの?すっごくいいよ!」

ジフは私の手を握ったまま、楽しそうに上下に揺らした。


ジフが用意してくれたのは、肩口にリボンのある袖がすっきりしたドレスだった。


黄色から裾にかけてクリーム色になっていて、腰のリボンが赤色で髪の色と同じだった。


首元はさっぱりしていて、首周りではなく腰から下がフリルでいっぱいなので、私の顔と合わないということもなかった。


ジフを疑うわけじゃないけれど、本当に大丈夫なのだろうか…。


「見立て通り、苺ケーキの妖精さんみたいだね」

ジフは私の赤い髪を一房取ると、くるくると指で遊んだ。


苺ケーキ…、だからこのクリーム色っぽいドレスなのか。

そんな可愛いものにジフには見えているの…?


「いつもと違う髪型も可愛いね」

「このドレスだと、いつものでは合わなくて…」

「うん、すっごく可愛い」

「…ケーキは言い過ぎたと思うの」

「ふわふわで、甘そうで、可愛いよ?」

惜しみない可愛いに、どうしていいかわからなくなる。


「……言われ慣れてないから、恥ずかしい」

「あれ、僕可愛いって普段言わないっけ?」

「いつもは綺麗って言ってくれるから…」

「ああ、思っているだけで言ってなかったか。リーゼロッテが可愛いのなんて当たり前すぎたから。これからは可愛いも言うね」

「…言わなくて、いい」

「なんで?すっごく可愛いよ、苺ケーキの妖精さん?」

これはジフの本心だろうとわかるし、揶揄っているともわかる。


「あらあら、髪だけじゃなくて、顔まで苺だ」

「…言わないで」

「ねえ、リーゼロッテ。好きならまた着たらいいよ」

「…人前で着る自信がないわ」

「僕の前だけで着たらいいさ」

「……」

「それで結婚したら、好きなだけ毎日家で着たらいいよ。どんな格好でも可愛いよ、リーゼロッテ」

子どもをあやすみたいに頭を撫でるジフに、7歳の私が何度も頷いているみたいだった。


甘やかし上手の婚約者に、宥められてしまった。


可愛いは、ジフによって少しずつ克服していくのだろう。


「もちろん、いつものリーゼロッテだって可愛いからね」

「…ジフの前だけでいいなら、着る」

子どもみたいに、私はジフのジャケットの裾を掴んだ。


「ずっと、着たかったの。好きだったの、ふわふわなの」

「うん、知っているよ」

「ジフなら、これでも、褒めてくれるでしょう…?」

見上げるようにジフを見ると、嬉しそうに抱き締められた。


「うん、そうして!可愛いリーゼロッテは、僕が独り占めするから!」


かわいい、嬉しいな。

絵本の中のお姫様のドレスを、私も着れている。


…たぶん、ジフには私が本当は喜んでいるのもバレているのだろうな。






お読みくださりありがとうございました!  毎日投稿109日目。

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