紙ひこうきのでんしょ鳩
女の子が紙ひこうきに乗せて「ありがとう」を届けるお話。
1.
山のふもとの小さな町で、女の子は育ちました。春はおだやかに、夏はまぶしく、秋はにぎやかで、冬は真っ白にうつくしい町でした。 ある日、女の子は紙ひこうきを作りました。羽の後ろに息を吹きかけると長くとぶようになるのだと、学校の先生が教えてくれました。白いおり紙で作った紙ひこうきを、最初は黒ばんの前からとばしました。次にいすの上からとばしました。その次に机の上からとばしました。けれど紙ひこうきは、ちっとも遠くへとびません。何度も息を吹きかけて、女の子は紙ひこうきをとばしました。
どうして女の子の紙ひこうきはとばないのでしょう。まっ白なおり紙の内がわには、おぼえたての文字がかかれていました。女の子が赤いクレヨンでかいた、はじめてのお手紙です。そのことばがおもたくて、紙ひこうきはとべないのです。
赤いクレヨンは、女の子のランドセルと同じ色でした。遠くにいるおじいちゃんが買ってくれた、ぴかぴかのランドセルです。しょってごらんとママに言われて、ぴかぴかの女の子ははずかしいようなうれしいような気持ちになりました。そのときはまだ、女の子の背中にはランドセルは少し大きいようでした。それでもおじいちゃんがにこにこしているので、女の子もにこにこしました。だからみんな、赤いランドセルが大好きでした。
2.
女の子は野原にくると、大きな切りかぶの上にのぼりました。空にむかって真っすぐに、白い紙ひこうきをとばします。今度はすこしだけ遠くにとんだようでした。でも野原のむこうには道があり、山があって、また道があります。お手紙をとどけるには、まだまだ足りません。
おじいちゃんとおばあちゃんがいるお家に行くには、長い長いトンネルをふたつもぬけなければなりませんでした。けんざかいのトンネルです。女の子はいつも途中でねむってしまうので、どのくらい長いトンネルなのか、本当はよくわりませんでした。だから女の子ひとりでは、とてもおじいちゃんのところへは行けないのです。
どれだけ息を吹きかけても、紙ひこうきは山のむこうへは行ってくれそうにありません。女の子は途方にくれました。本当はおじいちゃんのことがきらいだったのでしょうか。
ほんのたまにしか会えないので、おじいちゃんに会うとき、女の子はいつもきんちょうしてしまいます。おじいちゃんは忙しいので、あまり長い時間は会えません。おばあちゃんにあまえるように、おじいちゃんにあまえることはできないのです。叱られたことはありません。ママのパパで、お医者さんのおじいちゃんでした。やさしいおじいちゃんだったのに、まるではじめて会う人であるかのように、いつももじもじしてしまうのです。
ランドセルありがとう。
たったひとことがおもたくて、紙ひこうきはとべません。
女の子の目から、涙がこぼれおちました。おじいちゃんに会えなくなってからはじめての涙でした。
3.
ふーっと紙ひこうきに息を吹きかけると、ほっぺたを伝った涙が、ぽたぽたと紙ひこうきをぬらしました。せいいっぱい手をのばして、女の子はもう一度紙ひこうきをとばしました。
ふわり。
紙ひこうきが宙に浮いたとき、山から風が吹きました。
すると紙ひこうきは一羽の鳩になって、空高く舞い上がったのです。
まっ白な鳩は、くるくるとひと声なきました。
『ランドセルありがとう』
そのひとことを届けに、鳩は高く高くのぼっていきます。けんざかいの山より高く、わたがしみたいな雲より高く、天国のおじいちゃんのところまで、鳩はのぼっていきました。
紙ひこうきの鳩は、それきり女の子のところへ戻ってはきませんでした。
やがてランドセルがその役目を終えるころ、はずかしがりの女の子は少しだけ大人になって、きちんとありがとうを言えるようになっていたのでした。
ありがとうをあなたへ。




