06
授業が終わって、僕は練習場に残った。
水魔法の基礎は少しずつ理解できてきたが、まだ大胆に操れるほどではない。
掌に集めた水は、少し跳ねる程度。流れはわずかで、思った通りには動かせない。
「……まあ、まだこんなもんか」
口には出さず、淡々と呟く。心の中でちょっとだけ、自分が動かせたことを確認する。
嬉しいとか誇らしいとか、そんな大げさな感情はない。ただ、前より少し手応えがあるだけだ。
周囲を見渡すと、他の生徒たちは器用に水を操っている。
正直、あのレベルには遠く及ばない。
でも、僕は別に焦っていない。
「……まあ、ぼちぼちやるか」
水を少しずつ移動させ、跳ねさせ、形を変える。
掌の感覚に液体が伝わるたび、冷静に確認する。
「……こうやれば、少しは動かせる」
時間が経つにつれて、動かせる範囲も少し広がってきた。
「……これなら、戦えなくはないかもしれない」
僕は満足げに頷いたわけではない。
ただ、確かに一歩前進したとだけ思った。
大げさな感情を出す必要はない。
少しずつ、少しずつ、自分の武器を手に入れていく。
それで十分だ。
次の練習では、もう少し大胆に動かせるかもしれない――
心の中で、静かにそう思いながら、僕は水と向き合い続けた。




