05
雑兵コースの授業中、魔法の練習時間がやってきた。
僕は剣ならそこそこ振れるが、魔法は全くの初心者だ。
「どうせ、僕には無理だろ……」
半ば諦めながらも、手だけは動かす。心のどこかで、諦めきれない自分がいた。
水の入った小さな器を前に、掌をかざす。
最初は何も起きない。指先を動かしても、水はじっとしているだけだ。
周りの生徒たちは器用に水を動かしている。僕とは大違いだ。
じりじりと時間だけが過ぎる。焦る気持ちと、どうせ無理だという諦めの気持ちが交錯する。
でも、僕は手を止めなかった。
「……最後に、少しだけ試してみるか」
息を整えて、掌の感覚に意識を集中する。
水の流れや重さ、温度、微かな波紋。
すると、ほんのわずかに水が動き始めた。
「……動いたか」
思わず小さく呟く。顔には特に表情を出さず、ただ淡々と水の揺れを見つめる。
大げさに喜ぶことはない。
けれど、この微かな変化は、僕にとって初めての“手応え”だった。
器の中だけで揺れる水をじっと見つめながら、僕は考えた。
まだ十分ではない。だけど、少しは戦力になるかもしれない――と。
授業が終わり、他の生徒たちが談笑しながら帰っていく中、僕はそのまま残った。
「ここなら、誰にも邪魔されない……」
静かに呟き、地面の水たまりを手元に集める。
最初は少し動く程度だった水も、集中するうちに跳ね、流れ、掌の感覚にしっかり伝わる。
「なるほど……液体はこうやって操るのか」
普通の魔法は、神様から水を扱う祝福をもらったような感覚だと言う。
でも僕は違った。泥水や混ざった水も、液体として操れる――これが、僕にしかない感覚だと確かに思った。
時間が経つにつれて、僕の心は少しだけ軽くなる。
「……まあ、少しは戦えるかもしれない」
まだまだ完璧ではない。だけど、可能性を少しでも掴んだ感覚――それだけで十分だ。
次の練習に向けて、僕は黙々と手を動かし続けた。




