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ティアに監視されながら、僕は族長の家の奥へ案内された。
木でできた廊下は静かで、外とは別世界みたいにひんやりしている。
族長は椅子に腰を下ろすと、僕に向き直って言った。
「……実は、この数週間。村の周囲で“妙な気配”が続いている」
ティアも腕を組みながら横で補足する。
「人間の匂いだ。普段ならこんな深い森まで来ない。
なのに、最近は夜になると気配が増える」
エルフ戦士たちも重い顔でうなずいた。
「罠が壊されていたり、足跡が残っていたり……誰かが森を探っている」
僕は(なるほどな)と思いながら聞いていた。
族長が続ける。
「最初は盗賊団かと思っていた。だが規模が妙に大きい。
集団で森を包囲し始めているのだ」
ティアが僕に鋭い目を向ける。
「……それが、お前の言う“村人たち”か?」
僕はこくりとうなずいた。
「まぁ、はい。噂を聞いて、エルフを捕まえて売れば一攫千金だと……
一部の村人が狂ったように動き出しています」
エルフたちに動揺が広がる。
族長は深く息を吸った。
「……やはり、そうか。これほどの規模なら、いずれ村に到達するだろう」
僕は心の中でホッとしていた。
(危ないーー。もう少しで恩賞が貰えないとこだった)
本当にここが平和だったら、僕だけが空回りしていたし。
ティアが吐き捨てるように言う。
「だからと言って、すぐに信用するわけじゃない。
お前が何を企んでいようと、人間が迫っているのは事実だが」
「はいはい。僕が悪者なのはわかってますよ」
僕が肩をすくめると、ティアの眉がぴくりと跳ねた。
族長が手を上げて制した。
「ティア。監視はお前に任せると言っただろう。
まずはこの者の話をさらに聞く必要がある」
ティアは僕をにらみつけながらも、しぶしぶ頷いた。
「……村の周囲を調べるしかないな。
本当に人間が迫っているのなら、森の警戒を強化しなければならない」
族長は僕に視線を向ける。
「人間。お前にも同行してもらう。
村の外の状況を知る者として、案内役を任せたい」
「え、僕も行くんですか?」
ティアが冷たい目で言う。
「当然だろう。“逃げられたら困る”からな」
(……ん?
村の外の方が“逃げやすい”んだけど……馬鹿なのかな?)
もちろん恩賞のためにも、ここは素直に従っておくけど。
僕はため息まじりに返した。
「はいはい。わかりましたよ。行きます」
こうして僕とティア、そして数名のエルフ戦士で、
森の偵察に向かうことになった。
恩賞のためでもあるが――
エルフ村が本当に危険なら、動くのは今しかない。
(よし……ここからが稼ぎどころだ)
僕は軽く頬を叩き、森の入口へと歩き出した。




