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エルフの戦士たちが武器を捨てたあとも、
族長の娘ティアは僕を睨みつけ続けていた。
「……人間。話だけは聞いてやる。村へ来い」
怒りを噛みしめているのが顔を見るだけでわかる。
(いや怒るのは自由だけどな。油まみれなの忘れるなよ……)
エルフ戦士たちに囲まれ、僕は村の門の中へと連れて行かれた。
村の入り口には魔法陣が二重三重に張られている。
“絶対に部外者を入れません”という意志が伝わってきた。
ティアが言う。
「拘束具を持て。そいつが暴れないように――」
「おい待て。
なんで僕が自分から縛られに行くと思ってんだ?
今ここで僕が油を全方向に噴射して火がついたら……君ら全員、焼きエルフだよ?」
(まぁ、僕っていう“焼き人間”も1人できるけど。)
エルフ戦士たちはビクッと震えた。
ティアは舌打ちし、手を下げる。
「……油まみれの娘を盾にしてる卑怯者め」
(いや、お前が何も聞かずに突っ込んできたからこうなったんだろ……)
そのまま村の中心部へ進むと、
森の神殿みたいな立派な木造の家があった。
その前にいたのは、ティアに似た鋭い目をした男。
間違いなく族長だ。
「ティア。その者が例の“人間”か」
「はい父上。危険人物です。この下劣で卑怯な人間が私に油の魔法を――」
「黙りなさい、ティア。まず状況を聞く」
ティアは不満そうに顔をそむけた。
族長は僕を鋭く見つめる。
「さて人間。
エルフを忌み嫌う人間が“村を救いに来た”と言ったな。
その理由を聞かせてもらおう」
僕は息を整え、できる限り真剣な顔をした。
「人間は、エルフを嫌ってなんかいません。
むしろ……好きだからこそ、需要があるんです」
ティアの眉がぴくりと動く。
「需要……?」
「僕がここに来たのも、エルフが好きだからです。
まぁ、さっきの皆さんの歓迎のせいでちょっと揺らぎましたけど」
ティアのこめかみがピクッと跳ねた。
僕は続ける。
「でも僕は、村の連中とは違います。
あなたたちを売りに来たんじゃなく、救いに来たんです!」
エルフ戦士たちがざわつく。
「今、この森に向かって大勢の人間が来ています。
エルフを捕まえ、一攫千金を狙ってるんです!」
僕は一歩前に出る。
「もう、ここは危険です。
このままだと本当に襲われます!」
(まったく、金の力って怖いよな。その点、僕は“恩賞”くらいで我慢できる偉い人間なのだ)
族長は腕を組んだまま黙り込んだ。
「……信じ難い話だが、人間の欲深さは我々も知っている」
ティアが刺すように言う。
「父上!この人間の言葉を信じるのですか?
どうせ裏があるに決まっています!」
(いや、裏がない善意なんてあると思うなよ)
族長は娘を制した。
「ティア、落ち着け。
……人間よ。お前の話が本当ならば村は危機だ。
だが、完全に信用はできん」
「……まぁ、ですよね」
「ティア。こいつの“監視役”を任せる」
「は!? なんで私が!?」
「お前が一番警戒している。監視に向いている」
ティアは心底イヤそうに僕を睨んだ。
「……最悪だ。覚悟しておけよ、人間。
私は絶対にお前を信用しない」
(うわぁ……めんどくさそうなの来たな……)
こうして “ティアの監視つき” で、エルフ村の危機調査が始まった。




