04
最初の実技授業は、剣だった。
正直に言えば、剣の扱いにはそれなりの自信があった。
農村で育って、遊び半分とはいえ木剣を振り続けてきた。
基礎も、型も、学園基準では平均以上はある。
事実、雑兵コースの中では、僕の動きは悪くなかった。
「お前、剣はそこそこだな」
教官にそう言われた時も、
胸の奥が少しだけ温かくなった。
――けど。
英雄コースの訓練場を、遠くから見た時。
その温かさは、簡単に冷めた。
セシリアの剣は、僕の知っている「剣」とは別物だった。
速い。正確。無駄がない。
力任せじゃないのに、圧がある。
同じ時間、同じだけ努力してきたはずなのに。
結果は、ここまで違う。
「……剣でも、追いつけないか」
別に悔しくて歯を食いしばる、みたいなことはなかった。
ただ、静かに理解しただけだ。
ああ、僕は“普通”なんだな、って。
⸻
問題は、魔法だった。
座学はまだいい。
理論は分かる。仕組みも理解できる。
でも、実技になると話が変わる。
魔力を流す。
イメージする。
発動する。
――それだけのはずなのに。
「……無反応、か」
僕の前に浮かぶはずの光は、最後まで現れなかった。
何度やっても同じ。
詠唱を変えても、魔力配分を変えても、結果はゼロ。
教官は一度、僕を見て、短く言った。
「剣で食え。魔法は諦めろ」
淡々とした声だった。
同情も、軽蔑もなかった。
ただの事実。
その瞬間、ようやく分かった。
――僕が、学園ギリギリ合格だった理由。
剣は平均以上。
でも、魔法がからっきし。
魔剣士学園で、それは致命的だった。
⸻
その日の帰り道、セシリアに声をかけられた。
「レイン! クラス離れちゃったからさ、あんまり喋れなかったけどさーー」
「うん。そうだね」
いつもの癖で、苦笑いを浮かべる。
心からそう思っていない時の、僕の顔。
セシリアは、少しだけ寂しそうに笑ったけど、
それ以上、何も言わなかった。
たぶん、彼女なりに気を遣っているんだろう。
優しい。
だからこそ、余計に距離を感じる。
⸻
その夜、寮の天井を見つめながら考えた。
英雄。
そんな言葉、もうどうでもよかった。
特別な才能はない。
剣でも、魔法でも、上には上がいる。
だったら――
「……面倒だから、後回しにしよう」
英雄になる夢も、
セシリアに追いつくことも。
今は、生き残ることだけ考えればいい。
雑兵でもいい。
汚くてもいい。
死ななきゃ、それでいい。
そう思った時、
不思議と心は、少しだけ軽くなっていた。




